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「似てるのよ。毛の色とか、大きさとか……」
母の目に涙が浮び、ハンドルを握る手が震えている。
「嘘……だよ。やめてよ、ママ泣かないでよ」
「だって……こんなに戻らなかった事、今までなかったでしょう」
母がポロポロと泣き始めた。
嘘だよ……。
かめなしさん……死んじゃったの?
嘘だ……。
どうしよう……私のせいだ。
私がかめなしさんのこと、突き飛ばしたから?
嫌だよ……
かめなしさんが、死ぬなんて嫌だよ……。
涙がポロポロ溢れ、母と車の中でわんわん泣いた。
――私の心の中に大きな空洞が出来た。
矢吹君に失恋し、ぽっかり空いた穴が、
かめなしさんがいなくなって、もっともっと巨大な穴になった。
穴の中を冷たい風がビュンビュン吹き抜け、体が凍り付きそうだった。
「優香……もう、諦めよう」
自宅に帰ると、母がそう言ったんだ。
短い言葉だったけど、それはかめなしさんの死を意味していた。
私は庭の隅に母と一緒にお墓を作った。
遺骨の入ってない空っぽのお墓……。
お墓の中に、かめなしさんの古い首輪を入れた。かめなしさんの好きな餌もたくさん入れた。
手で土を被せ……
母と泣きながら、手を合わせた。
かめなしさん……
ごめんね。
ごめんね……。
◇
「優香、かめなしは幸せだったよ。優香に拾われて幸せだったはず。だから、もう泣くな」
かめなしさんが事故に遭ったと知り、恵太が家に来てくれた。
庭の隅に作ったお墓。盛り上がった土を見て、恵太は呆然とした。
「……本当に死んでしまったんだな。さよならも言わずにいなくなるなんて……。お前は大馬鹿野郎だ」
恵太の瞳が潤んでいる。
「……恵太」
「アイツは俺を嫌っていたみたいだけど、俺は好きだったよ」
「……恵太」
恵太は私の肩をグイッと引き寄せ、頭をポンポンと叩いた。
「優香、泣いていいよ。ていうか、俺もう泣いちゃってるし」
「……ふえっ」
いつまで経っても、私は強い大人になれない。
「……ふえっ、ふえっ」
寂しい心の中に……
恵太の優しさが浸透していく。
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