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「そうだ。優香が触れたら彼女が目覚めた」
「そうか……」
矢吹は感情を露わにすることもなく口元を緩ませた。
「どうして俺が先に殴ったことを、警察にも優香にも言わなかったんだよ。どうして自分だけ加害者ぶるんだよ」
「中原のパンチは殴ったとは言わないんだよ。あれは猫パンチだな」
「は?ね、猫パンチ!?お前、バカにしてんのか!」
「中原、そう熱くなるな。俺はもうお前とは戦わない。お前の将来に傷を付けたくないんだ」
「……俺の将来?矢吹、お前、わざと俺を殴ったのか。看護師が警察に通報すると思ったから、わざと俺を殴ったのか……」
「さあ、どうかな。でも、中原が上原と凪を逢わせてくれたから、凪が目覚めることが出来た。ありがとう、礼を言うよ」
一体、なんのことだよ?
「俺は礼を言われることなんかしてない。矢吹……お前これからどうするつもりなんだよ」
「俺か?凪と一緒に日本を離れる」
「……日本を離れる?」
「ロスに戻らなければならなくなった。それだけだ。上原のことを傷付けたことは謝る。中原の方が、俺の何倍も上原のことを想っているはずだ。悔しかったら、お前が上原を幸せにしろよ。そんなこともできないのか」
「矢吹……」
「俺、もう行くな。凪が待ってるから」
矢吹は俺に背を向けた。
これは矢吹の本心なんかじゃない。
矢吹は優香のことが、好きなんだ。
彼女とのことも、きっと何か事情があるはず……。
エレベーターの扉がスーッと閉まる。
矢吹は扉が閉まる直前、優しい笑みを浮かべた。
――俺……
とんでもない事をしてしまったのでは、ないだろうか……。
どうしたらいいんだよ。
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