【6】恋の方程式が解けない? 摩訶不思議。
恵太side
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――優香に嘘をついた。
『……矢吹君が一方的に殴ったの?』
そう聞かれ、本当のことが言えなかった。
『矢吹君がそう言ったから。恵太に彼女のことを知られて殴ったって……』
矢吹がそう言ったのか。
どうして、そんなことを言ったんだよ。
本当は俺が悪いのに。
『……そうだよ。アイツは卑劣な男だ。もう拘わるな』
優香をアイツから引き離したくて、昏睡状態の彼女に無理矢理逢わせ、優香を傷付けた。
卑劣なのは、矢吹じゃない。
俺の方だ……。
――四月三日、頭部の治療もあり恵法大学附属病院に向かう。
美子は社会人として入社式に挑んでいるはず。俺も本来ならばこんなことに、時間を費やしている暇はない。
頭部の怪我は軽症だ。
医師の診断通り、数日もすれば治るだろう。
この病院の五階に、目覚めた彼女がいる。
きっと……矢吹も病室にいるのだろう。
迷ったものの、俺の足はエレベーターに向かう。下降してきたエレベーターの扉が開き、目の前に矢吹の姿があった。
「……矢吹」
「中原、怪我はもう大丈夫なのか?本当に申し訳なかった。このエレベーターは下に降りるけど、乗るのか?」
「……あっ、うん」
本当は五階に行くつもりだったが、エレベーターに乗り込み一階に降りる。
「俺、売店に行くんだ」
「……お、俺も売店に行くんだ」
言いたいことは山ほどある。
聞きたいことも山ほどある。
それなのに、なに緊張してんだよ。
矢吹は売店でパンや缶コーヒーを購入し、俺も目の前にあった缶コーヒーを掴む。
「……彼女、目を覚ましたのか?」
矢吹の手が止まり、俺を見つめた。
「どうしてそれを知ってる」
「……昨日、優香が病院に戻ったあと、病室に連れて行った」
「上原を凪と逢わせたのは、中原だったのか」
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