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◇
「これでわかっただろう」
車を走らせながら、恵太が話しかける。
「彼女が意識を取り戻すなんて、驚いたけど。これでもう矢吹が優香に近付くことはないだろう」
恵太の言葉が、傷付いた心にズキズキと突き刺さる。
「……恵太、本当に矢吹君が一方的に殴ったの?」
「……えっ」
「矢吹君がそう言ったから。恵太に彼女のことを知られて殴ったって……」
「……そうだよ。アイツは卑劣な男だ。もう拘わるな」
矢吹君が無抵抗な恵太を殴った。
そんな酷いことをする人だとは、思わなかった。
矢吹君の優しい笑顔も……
甘い言葉も……
初めてのキスも……
全部、全部、嘘だったんだ……。
「……恵太、私……バカだね」
助手席で、ボロボロ泣いた。
自分の愚かさに、涙が溢れて止まらなかった。
――帰宅すると、かめなしさんが玄関の前に座っていた。
「優香、また電話する。じゃあな」
「……恵太、送ってくれてありがとう」
恵太の車を見送り、玄関のドアを開けそのまま二階に駆け上がる。
『優香、待てよ。どうしたんだよ?』
部屋に飛び込みベッドに伏せて、わんわん泣いた。大好きだった矢吹君に、フラれたんだ。私は恋人の身代わりだった……。
『優香、恵太と喧嘩したのか?それとも……アイツか!?』
「かめなしさん……。矢吹君に恋人がいたんだよ……。二年間も昏睡状態だった彼女が、目を覚ましたの……」
『アイツ、二股していたのか!えっ?昏睡状態だった彼女……!?』
「事故で、二年間も……昏睡状態だったらしいの……」
『二年間……。その彼女、優香に似てたのか?』
「……うん、髪はショートヘアだったけど、まるで鏡を見ているみたいだった。……かめなしさん?どうしてそれを?」
『……生きていたのか』
「かめなしさん?」
かめなしさんは唇を噛み締め、体を震わせた。その大きな瞳に涙が光る。
「……かめなしさん、どうしたの?どうして、かめなしさんが泣いてるのよ」
『優香が泣いてるからだよ。俺はいつだって、優香の味方だ……』
かめなしさんが私を優しく抱き締めた。
かめなしさんの腕の中は、ふわふわのブランケットみたいに温かい。
かめなしさんの胸に顔を埋めて泣いた。
泣いても、泣いても、涙が涸れることはない。
そのまま、泣き疲れて……いつの間にか眠ってしまった。
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