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「上原、行こう」
「……うん」
矢吹君と一緒に警察署を出る。
「どうしてここに?中原から聞いたのか?」
「……恵太のお母さんが、看護師さんから聞いたの。恵太は気を失っていたから、矢吹君が警察に連行されたことは知らなかったみたい」
「そっか。中原が電話してくれたんだ。中原に借りが出来たな」
「……どうして、喧嘩したの。恵太、怪我をしたんだよ!怪我をするくらい殴るなんて、矢吹君酷い……」
思わず口から飛び出した言葉に、矢吹君は少し寂しそうな顔で私を見つめた。
でも、すぐに冷たい口調になり、私を睨みつけた。
「俺は今まで上原を騙していたんだ」
「……私を……騙していた?」
「恋人が恵法大学附属病院に入院している」
「……恋人?」
「二年前、俺達が乗っていた車が高速道路でスリップ事故を起こし、車が横転し彼女は昏睡状態に陥った。二年前からずっと眠ったままだ」
「……ずっと……昏睡状態」
「中原は偶然病院で俺を見掛け、そのことに気付いた。上原は
「矢吹君……なに言ってるの」
「俺は上原が好きだったわけじゃない。上原が凪に似ていたから付き合ったんだ」
「……やぶきくん」
「中原はそれを知り、俺を罵倒した。だから、俺は中原を殴った。上原に知られたくなかったからな。でも、もう終わりだよ。もう上原とは逢わない。じゃあな」
「……嘘だよね。矢吹君……全部嘘だよね。私のこと、好きだって……」
「俺が好きなのは、凪だけだ。上原は……凪の身代わりだった。これでわかっただろう。中原のところに戻るんだ」
矢吹君が言ってることがわからない。
思考回路が混乱して、パニックになっている。
言葉を発しようとすると……
涙が溢れ嗚咽が漏れた。
矢吹君はタクシーを止め、私をタクシーの中に押し込み運転手にお金を渡した。
「彼女を恵法大学附属病院まで送って下さい。お釣りはいりません」
「はい。ありがとうございます」
運転手は上機嫌で一万円をポケットに突っ込んだ。
タクシーのドアが閉まる。
私は茫然自失となり、顔を上げることが出来なかった……。
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