優香side

74

 ―午後三時半―


 携帯電話が音を鳴らした。


「……知らない番号だ」


 知らない電話番号には、基本出ない主義。でも何故か胸騒がし、電話に出る。


「もしもし……」


『こちらは恵法大学附属病院外科外来ですが、上原優香さんですか?』


「……はい」


『実は、中原恵太さんが怪我をされ処置室で休まれています。ご自宅の連絡先がわからず、あなたに連絡させていただきました。お手数ですがご家族に連絡していただくか、迎えに来ていただけませんか?』


「恵太が怪我を……?恵太は大丈夫ですか!」


『頭部の裂傷はありますが、命に別状はありません。気を失われ、今は処置室で休まれています。実は、院内で暴力事件に巻き込まれ怪我をされたため、一応ご連絡を……』


「……暴力事件!?わかりました。すぐに伺います」


 私は家を飛び出し、恵太の家に走った。

 チャイムを連打し、おばさんに事情を説明し、おばさんの運転する車で一緒に恵法大学附属病院に向かった。


 車の中で、恵太がキャンプ以来風邪を拗らせ寝込んでいたことを知る。


「あの恵太が暴力事件だなんて。今まで喧嘩なんて、一度もしたことないのに。一方的に巻き込まれたのかしら。キャンプから戻って、恵太の体調がすぐれなくてね。体調もだけど、元気がなくて。キャンプで何かあったのかな?優香ちゃん、何か聞いてない?」


 バカみたいに明るい恵太が……

 元気がないなんて……想像もつかないよ。


 恵太には、元気しか取り柄はないんだから。


 何か原因があるとしたら……

 それは……。


「……いえ、何も。キャンプでは伊藤君や相津君と騒いでいたし。ヘタレで臆病な恵太が喧嘩だなんてあり得ません」


「そうよね。大事な時期なのに、何やってんだろう。人騒がせな子ね。優香ちゃん、病院に付き合わせてごめんなさいね」


「……いえ」


 大事な時期……。

 そうだよね。


 恵太は今から夢にチャレンジするんだ。


 恵太……。

 怪我をして気を失うなんて、本当に大丈夫なの……?


 恵太……。

 恵太に何かあったら、私は……。


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