貴side

73

 止めたのに、中原は何度も俺に殴り掛かった。屋上にいた者が悲鳴を上げ、看護師が周辺に集まる。騒ぎはますます大きくなる。


「もう……やめとけ。警察沙汰にしたくない」


「うっせぇ!そんな事!関係ねぇ!」


 しょうがねーな。


 上原……ごめん。


 中原を暴力事件の加害者にはしたくない。


 俺は、中原の鳩尾にストレートパンチを浴びせる。


 中原の顔は苦痛に歪み、体は後方に吹き飛び白目を向いて気を失った。


「世話がやけんな……」


「あなた、何をするの!大丈夫ですか?大丈夫ですか?」


 中原の後頭部からは血が滲んでいる。少しやりすぎたようだ。


 看護師が中原に駆け寄り応急処置をし、外科外来に連絡している。


「俺は逃げたりしないよ。彼の処置を優先して下さい」


「そんなこと言われなくてもわかっています。頭部の裂傷はわずかな傷なので縫合する必要はないでしょう。ですが、念のため、頭部のCT検査をします。先に彼が殴り掛かったとはいえ、院内での暴力事件は許されないわ」


「警察に通報するなら、してもいい。でも、間違えないで下さい。彼は被害者で俺は加害者です。いいですね」


「……い、言われなくてもそう証言します」


 屋上にストレッチャーが運ばれ、看護師が中原を乗せエレベーターに運ぶ。俺は看護師とともに乗り込む。


「彼のご家族の連絡先はご存知ですか?」


「連絡先?上原優香に連絡して下さい。彼の幼なじみだから」


 俺は上原の連絡先を看護師に伝える。

 処置室の前で、駆け付けた警察官に取り囲まれ、任意同行に応じた。


 警察官に連行され、パトカーに乗り込む。車窓から凪の入院病棟を見上げた。


 もう……

 上原と付き合う資格なんてない。


 凪のことを中原に知られてしまったのだから……。




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