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――午後三時。カラオケでストレス発散し、美子と一緒に帰宅すると、玄関先にかめなしさんが座っていた。私のことがよほど心配だったようだ。
『美子ちゃーんっ!逢いたかったよ。暫くこないから、寂しかったんだからな。もうすぐ社会人になっちゃうなんて、銀行員の制服も見てみたい。萌え~だよ』
かめなしさんが美子の足元にスリスリと体を擦り付ける。
何が『萌え~』だ。マジで変態にしか見えないから。
「久しぶりだね、かめちゃん。うふっ可愛いっ。チューしちゃおうかな。ファーストキス、かめちゃんにあげちゃう」
うわ、マジで?
美子がかめなしさんの頭を撫でる。かめなしさんは、目を細め喉を鳴らしている。
『最高!超気持ちいいっ!チューしていいよ。濃厚なやつ、宜しく。久しぶりの再会だから、燃えちゃうよな』
「ふん、炎上しろ。そのだらしない顔、まるで中年のエロ親父だね」
『ひ、ひでーな。俺は優香とタメなんだからな。エロ親父はないだろ。美子から、チューしたいって言ったんだよ。俺はそれを受け止めただけ』
かめなしさんが私を睨む。
「美子はチューなんてしませんから」
『ちぇっ、だったら優香、チューしようぜ。矢吹とキスしたなら、俺がその唇を消毒してやる』
「うわ、うわ、消毒じゃなくて。菌をばらまく気でしょう」
「菌?優香誰に言ってるの?」
美子は不思議そうに首を傾げ、かめなしさんにチューってキスをした。かめなしさんと美子のラブシーンを目の当たりにし、何故か面白くない。
「じゃあね。かめちゃん、またね」
『おう、美子またいつでも来いよ』
何が、『おう』だ。
キザに振るまっても、美子には『にゃー』にしか聞こえないし、姿だって猫にしか見えないんだからね。
「……ほんと、呆れる。美子、入社式頑張ってね」
「ありがとう。優香、バイバイ」
入社式か……いいな。
美子が遠い存在になった気がする。
『浮かない顔だな。妬いてるのか?美子とのキスは挨拶だよ。優香とのキスは恋人のキス』
「ばーか」
そんなんじゃないよ。
でも、今日だけは優しくナデナデしてあげる。
だって美子とこうしてまた話せるようになったのは、かめなしさんのお蔭だから。
それは、素直に感謝してる。
でも『ありがとう』なんて、口が裂けても言わないけどね。
美子の後ろ姿を見送りながら、五軒先の恵太が気に掛かる。恵太はどうしてるのかな。
あれから、LINEも電話もない。
そう言えば、歩道を歩く姿も車で外出する姿も見掛けない。
恵太と……
ずっと……友達でいたいのに。
恵太は……
私にとって大切な……親友だから。
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