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―三月三十一日―
三月も今日で終わる。
美子はもうすぐ入社式。すぐに研修が始まり、私と逢うこともないだろう。
このままなんて、嫌だ……。
美子との蟠りを解消するなら、今日しかない。
勇気を出して、美子に電話をした。
何度もコールするものの、美子は電話には出てくれない。
LINEも既読にならないんだから、電話に出るはずないんだ。
諦め掛けた時……
『……はい』
懐かしい美子の声が鼓膜に響いた。
「美子……。私、優香。元気?」
『優香……』
「美子、逢えないかな」
『……』
「私は、美子とこのままなんて嫌だよ」
『わかった……』
美子はおばさんと新宿で買い物をしていたため、私達は渋谷のカラオケ店『pK』で、待ち合わせをした。
カラオケ店なら、家で話すよりも話やすいと思ったから。
かめなしさんが、心配そうに私を見つめる。
『優香、大丈夫だよ。素直に気持ちを伝えれば、きっと仲直り出来る。幼稚園の時からの親友なんだろう。わかってくれるさ』
「うん……。自分の気持ちを正直に話して見るよ」
飼い猫に、励まされた。
でも、不思議と気持ちが落ち着いた。
美子に会うのはキャンプ以来だ。まだ数日しか経っていないのに、もう何ヵ月も、何年も逢ってない気がして。
緊張がハンパない。
面と向かったら、何から……話せばいいんだろう。
『pK』に先に着いた私は個室で待つ。
個室の壁の掛け時計の長針が動く度に、鼓動は速まり手に汗を握る。
少し遅れたけど、約束通り美子が来てくれた。美子はバツが悪そうに俯いたままだ。
「……美子。来てくれてありがとう。久しぶりだね」
「そう……だね」
「少し痩せたんじゃない?」
「うん……元気だよ」
暫く沈黙が続く。
会話が上手く続かない。
少しして、美子が重い口を開いた。
「ごめん、優香。私……どうかしてた。私……ずっと謝りたかったんだ」
美子は一気に喋ると泣き出した。
「美子……」
「だって……優香は、何も悪くないもんね。私、本当にバカだね」
「ううん、私こそ本当にごめん……」
「私ね。ずっと仲直りしたかったんだけど、自分から言い出せなくて……。LINEも読むことが出来なかったの。ごめんなさい」
美子は泣きながら、私に詫びた。
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