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「優香、彼といつから付き合ってるの?彼は何歳なの?どこの大学を卒業されたの?東京の方?もう就職されてるのかしら?」
母は次から次へと、私に質問を浴びせた。
「まだ付き合い始めたばかりだから。矢吹君は私と同じ歳で帰国子女なんだよ。三年前に日本に戻り北海道の大学を卒業したって聞いたけど、私も詳しいことは知らない」
「まあ、お付き合いしているのに何も知らないの?就職の内定決まってないのかな。二人揃って就活中だなんて、前途多難なカップルね」
前途多難だなんて、まるで絶望的みたいに。私はともかく、矢吹君に失礼だよ。
「疲れたから、夕飯まで部屋で休む。洗濯物宜しく」
「はいはい」
かめなしさんは母からちゃっかりオヤツをもらっている。
猫は働かなくていいから、いいよね。
私もなれるものなら、猫になりたいよ。
冷蔵庫から缶珈琲を取り出し、二階に駆け上がる。
ストレス発散のために参加したキャンプなのに、発散どころかストレスが蓄積され、気疲れでヘトヘトだ。
部屋の窓から家の前の車道を眺める。
暫くすると、恵太の車がスーッと家の前を通り過ぎた。
恵太の家のカーポートに車は収まり、美子が後部座席から降りた。恵太が美子に荷物を渡している。
遠くてよく見えないが、恵太が何か話し掛け、美子が泣きながら走り去った。
「……美子」
恵太のバカ、何言ったのよ。
本当にバカなんだから。
直ぐに携帯電話を取り出し、美子にLINEしたけど既読になることはなかった。
いつもなら、すぐに返信あるのに。
『どうしたんだよ。浮かない顔だな』
「かめなしさん、美子が泣いてた……」
『美子が?恵太が優香に告ったんだ。泣きたくもなるだろう』
「……私のせいだよね」
『そうだな。そもそも矢吹をキャンプに連れて行った優香のせいだよ。矢吹さえ連れて行かなければ、洋子と喧嘩にもならなかったし、恵太が優香に告ることもなかった。美子を泣かせることもなかったし、幼なじみの嘘っぱちな友情は守れたわけだ』
「……嘘っぱちだなんて酷い。私達は親友なんだから!」
『好きな気持ちを偽って、友情ごっこして何が楽しいんだよ。友情ってのはな、失恋しても変わらないのが、真の友情なんだよ』
「猫のくせに、わかったようなこと言わないで」
『俺だって、それくらいわかっている。だからこうして……』
かめなしさんは何故か表情を曇らせた。
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