63
矢吹君とかめなしさんの視線が重なった。矢吹君には猫にしか見えないはずなのに、まるで人間を見ているかのような眼差しだ。
私の……気のせいだよね。
自分が人間に見えるからって、矢吹君にもそう見えるはずはない。だって、みんなには猫にしか見えないんだから。
「お帰りなさい。恵ちゃん、いつもありが……」
車のエンジン音を聞き、家から出て来た母は、恵太だと勝手に決め付け、白いピカピカのポルシェと、イケメン矢吹君の姿に……固まっている。
『ママ、ただいま。ママ、どうしたんだよ?コイツは優香の友達だ。いや、ストーカーかな。俺が優香を守るから、心配しなくてもいいよ』
「か、かめちゃん。一緒に連れて行くなら行くって、そう言ってよね。事故にでも遭ったんじゃないかって、パパとすっごく心配したんだからね」
母はかめなしさんをギューッと抱き締めた。
『ママ、ごめん。優香を悪い虫から守るには、こうするしかなかったんだよ。俺は正義のヒーローだからな』
矢吹君はチラッとかめなしさんを見て、母に会釈した。
「初めまして。矢吹貴と申します。優香さんとお付き合いさせていただいています。宜しくお願いします」
「……えっ?優香と……お付き合いですか?優香と、付き合ってるんですか!?ゆ、優香の彼氏!?」
母は目を見開き、素っ頓狂な声を上げた。
「……ゆ、優香、一体どこでこんなイケメンを捕まえたのよ」
「やだ、ママ。矢吹君とはスポーツクラブで知り合ったの」
「まあスポーツクラブにイケメンが泳いでいたの?矢吹君、よかったら上がってお茶でもどうぞ」
「ママ、矢吹君は用事があるから。ね、ね」
矢吹君を家に上げるなんて、とんでもない。母の餌食になってしまう。
思わず、矢吹君に目で合図する。
「……そうですね。今日はご挨拶だけで。また寄らせていただきます」
矢吹君は爽やかな笑みを浮かべ、母にお辞儀をした。
『ちぇっ、早く帰れよな。どこがイケメンなんだよ。俺の方がイケてるっつーの』
矢吹君が再びチラッとかめなしさんに視線を向けた。かめなしさんが一瞬怯む。
「矢吹君、ありがとう。また、スポーツクラブでね。バイバイ」
「じゃあ、上原またな。おばさんお邪魔しました」
矢吹君はポルシェに乗り込み、颯爽と立ち去る。
母はかめなしさんを抱きながら、ウットリした眼差しで見送っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます