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でも恵太の車の助手席は、美子ではなく琴美だ。美子は後部座席でカンジと宏一に挟まれ、小さくなっている。
『美子、こっちに乗る?』そう言いたいのに、聞くことが出来ない。
なぜなら、美子が私と視線を合わせようとしないからだ。
助手席の窓がスーッと開き、琴美が笑顔を向けた。
「優香、洋子のこと気にしなくていいからね。次に逢った時は、きっとケロッとしてるよ。彼氏と上手くやりなさい。私も球児と上手くやるからさ」
「……琴美。じゃあ、またね。美子……またLINEするね」
美子は俯いたまま、小さく頷いた。
恵太の車が静かに発進する。
『あーあ、美子完全に拗ねてるな。恵太が優香に告ったりするからだよ。乙女心傷ついちゃったよ。可哀想に』
「……それで、元気がないのかな」
『かなり重症だよ。俺と一緒だ。目障りなのはアイツだ』
かめなしさんが矢吹君を睨みつけ、矢吹君は一瞬戸惑ったように見えたが、すぐに私に視線を向けた。
「上原、どうかしたの?」
「あっ、何でもない」
「俺達も帰ろうか」
「……うん」
私はかめなしさんと一緒に矢吹君の車に乗り込む。私の膝の上に乗ろうとしたかめなしさん。
「あのさ、無理だから」
『どーしてだよ。優香の膝の上で大丈夫だよ』
「絶対、無理だから。後部座席に乗ってよ」
『ちぇっ、イチャイチャ禁止だからな。もし、イチャイチャしたら、アイツに噛みついてやる』
「そんなことしたら、許さないからね」
矢吹君が私を見ながら、クスクスと笑った。
「上原って、本当に面白いな。まるで猫の言葉がわかってるみたいだね。猫がいるから、寄り道も出来ないし、真っ直ぐ家に送るよ」
「わ、わ、私はかめなしさんと会話なんてしてないし」
「前から思ってたんだけど。どうして『かめなしさん』なの?猫が自分で名乗るはずもないし。まさか、上原の初恋の人の名前とか?」
矢吹君はサングラスを掛け、ハンドルを握る。その横顔に、思わずうっとりと見とれた。
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