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 ◇


「上原、上原、起きて」


「……えっ?えっ?わ、わ、矢吹君がどうして私のテントに!?」


「ここはテントじゃないよ。俺の車だ。昨日、二人で話をしていて……そのまま寝てしまったんだ」


「やだ!?どーしよう!?もう、朝の八時だよ」


「テントに戻ろう!」


「……うん」


 慌てて車を降り、キャンプ場に戻る。

 すでに琴美や洋子達は起きていて、朝食のホットドックや焼きそばを調理していた。


「……お、おはよう」


「優香、矢吹君、おはよう。テントにいなかったでしょう。二人でどこ行ってたの?もしかして、もしかして」


 ニヤニヤ笑いながら、琴美が私達をからかう。美子は「おはよう」だけ言うと、素っ気ない顔でコーヒーを入れている。


「優香はおとなしそうな顔して、やることは最低だよね。平気で二股してるんだから」


 洋子の言葉に、美子の手が止まった。


「……洋子、変なこと言わないで」


「変なこと?私、昨日聞いちゃったんだ。恵太が優香に告ってるとこ。そのあと、矢吹君と車であんなことするなんて、ねぇ恵。サイテーだよね」


 あ、あんなこと……!?


 洋子や恵に、全部見られていた!?


「おっは~!ふぁ~!眠い!おい、矢吹、お前どこで寝たんだよ」


 男子がゾロゾロとテントから這い出す。


 カンジと宏一は「腹が減った」と大合唱しながら、ホットドックに手を伸ばし、女子の険悪な雰囲気に気付き、口を開けたまま固まっている。


「どうかした?みんな変だよ?」


「優香と矢吹君が車でキスしてたの。恵太とデートしたあとに、矢吹君とキスしたんだよ」


「……優香とキス?」


 恵太の顔色がサッと青ざめ目つきが変わる。


「洋子、いいい加減にしなよ。昨日から変だよ。私と球児も昨日キスしたわ。恋人同士ならキスもハグもする。夜空見ながらするキスは最高にロマンチックだもの。そんなことでいちいち妬かない、妬かない」


「だよな、腹減った。俺はキスよりホットドックだ。キスじゃ、腹は満たされねーかんな」


 カンジの言葉に宏一も「そーだ、そーだ」と相槌を打ち、ホットドックにかぶり付く。


 子供達も目覚め、一気に賑やかになる。


 洋子はそれ以上は語らず口を閉ざしたが、恵太も美子も貝のように口を閉ざした。

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