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「車で話そうか」
「……うん」
二人で駐車場まで歩く。
矢吹君がすっと私の手を握った。
みんなを傷付けているのに、自分だけがこんなことをしていいのかな。
いいわけない。
自分から、矢吹君の手を解く。
矢吹君は助手席のドアを開けてくれた。罪悪感を抱えたまま車に乗り込む。
矢吹君は運転席側に回りドアを開け、車に乗り込んだ。
「このまま、二人でどこかに行こうか」
「えっ?ダ、ダメだよ。私、降りる」
「冗談だよ。上原って、面白いね。猫と話したり、可愛い。俺はそんな上原も好きだよ」
「……矢吹君」
「中原はきっと俺達のことを認めてくれたんだよ。だから、上原のところに行けって言ったんだ」
本当にそうかな。
恵太のことだ。
単純にテントが狭いから、目障りな矢吹君をテントから追い出したに違いない。
「さっき、どうして泣いてたの?」
「……何でもない。もう平気」
恵太に告白されたなんて、矢吹君には言えない。
「宮地さんや中原に何か言われたなら、俺が上原を守る」
「……矢吹君」
矢吹君の言葉のひとつひとつが、消しゴムみたいに私の罪悪感を消し去っていく。
「俺は部外者だけど、みんなに仲間だと認めてもらえるように頑張るよ」
こんな状況で、みんなに仲間だと認めてもらうなんて無理に決まってる。
――でも……
もう私の気持ちも引き返せない。
恵太も美子も大切な存在だけど。
矢吹君はもっと大切な存在になりつつある。知り合った期間は短いけど、付き合った長さなんて関係ないと思えた。
矢吹君が私に視線を向けた。その澄んだ瞳に吸い込まれそうになる。
ゆっくりと近付く、矢吹君の顔。
夜の闇に呑み込まれるように、私はゆっくりと瞼を閉じた。
初めてのキスは……
私の気持ちを、よりいっそう強いものにした。
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