56
「恵太……」
恵太が私の手を掴んだ。
その真剣な眼差しから、視線を逸らす。
「……恵太、ごめん。私……」
恵太は掴んだ手を離した。
「ごめん。美子の気持ちには応えられない。それくらいわかるだろう。もうテントに戻ろう」
私……
なにやってるんだろう。
美子の気持ちを……
踏みにじってしまった。
恵太の予期せぬ告白に、混乱している。
「じゃあな。おやすみ」
「……おやすみなさい」
恵太と別れたあとも、美子が寝ているテントに入ることが出来ない。ガサガサと音がし、テントからかめなしさんが這い出す。
『どうした?優香』
「……かめなしさん。私……」
『恵太に告られたんだろう。だから言ったんだよ。恵太は優香のことが好きだって』
「……私、恵太に余計なこと言っちゃった」
『余計なこと?』
「……美子の気持ち、勝手に話しちゃった」
『バカだな。恵太は優香のことが好きなんだよ。美子と付き合えるわけないじゃん』
「……どうしよう」
どうしたらいいのかわからなくて、泣き出してしまった私。
『ばーか。泣くなら俺の胸で泣け』
「……かめなしさん」
かめなしさんの胸に縋って泣いた。
大切な友達を失ってしまった寂しさと、大切な友達を裏ぎってしまった悲しさに、涙が溢れて止まらなかった。
「上原?」
「……矢吹君」
『チッ、またお前かよ。せっかくいいとこだったのに、いつも、いつも、何で邪魔するかな。俺はお前の顔なんてみたくねぇんだよ』
「俺、かめなしさんに嫌われてるみたいだね。無理もないけど」
「ごめんなさい。こら、かめなしさん唸らないで。テントに戻りなさい」
『ちぇっ、何でこうなるんだよ。大体、恵太や美子との友情を壊したのは、矢吹が現れたせいだろ』
「そうだけど。テントに入ってて」
『琴美が寝相悪すぎて寝れないんだよ』
琴美、テントに戻って来たんだ。
「上原?猫と話せるのか?……そんなわけないよな」
「あ、は、ごめん。つい……」
矢吹君は私の顔を覗き込み、頬を濡らす涙を指で拭った。
「泣いてるのか?中原と喧嘩したのか?中原が、上原のとこに行けって……」
「……恵太が?」
「うん。テント狭いからって、追い出されたんだ。確かに、男五人はむさ苦しいな」
恵太が……
矢吹君に、そんなことを……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます