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◇
「やだ、それ以上くっつかないで」
テントの中で、美子はもう眠っているようだった。琴美はまだテントに入らず、松野君と車でイチャイチャしている。
かめなしさんはチャンスとばかりに、私に抱き着こうとするが、それを必死で阻止する。
『テントの中だなんて、萌える。優香、もっと傍にきていいよ。腕枕してやろうか?』
「やだよ、変態!勝手に発情しないで。私や美子に変なことしたら許さないからね」
『変なことって、どんなこと?優香、照れちゃって可愛いな。狭いテントで密着してるのに、男として我慢するなんてムリ』
「……っ、一人でムラムラしないで。あなたは猫なんだからね」
『ちぇっ……』
数分後、かめなしさんはあっさり爆睡した。喋らなければ寝顔は可愛いのに。
いつまで、人間に見えるんだろう。
早く、元の猫に戻って欲しい。
眠れなくて、そっとテントを抜け出す。
夜空を見上げると、ぽっかりと浮かぶお月様。
「なにやってんだよ」
振り返ると、そこに立っていたのは、恵太……。
「……恵太」
「幽霊見たような顔すんなよ。眠れないのか?」
「……うん」
「俺も眠れないんだ。ちょっと散歩しない?」
「……散歩?」
「少し優香と話がしたい」
「……うん」
私も恵太と話がしたい。
美子の気持ち、恵太にわかって欲しい。
二人でキャンプ場を歩く。
暫く、無言が続いた。
「なぁ、優香」
「ねぇ、恵太」
同時に言葉を発し、思わず顔を見合わせる。
「優香から言えよ」
「恵太から言いなよ」
恵太はコホンと咳払いし、丸太のベンチに腰を下ろした。薄暗い外灯に虫が群がっている。
「今日はごめん」
「……恵太」
「俺……。矢吹と優香が付き合ってるなんて知らなくて」
「……それは」
「矢吹が優香や洋子の気持ちを弄んでいるのが許せなかったんだ。でも、優香が矢吹のことを好きなら、仕方ないのかな」
「……恵太は、美子のことどう思ってるの?」
「美子?美子は俺の幼なじみ、親友だよ」
「そうじゃなくて、異性としてどう思ってるの?美子はね、恵太のことが好きなんだよ」
「美子が……?まさか……」
「美子の気持ちを大切にしたいの。恵太が美子のこと好きなら……」
恵太は私を見つめ、溜息を吐いた。
「美子の気持ちって、なに?俺の気持ちはどーすればいいんだよ。俺はずっと、優香のことが好きだったんだ。矢吹よりも、ずっとずっと前から、優香のことが好きだったんだ」
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