55

 ◇


「やだ、それ以上くっつかないで」


 テントの中で、美子はもう眠っているようだった。琴美はまだテントに入らず、松野君と車でイチャイチャしている。


 かめなしさんはチャンスとばかりに、私に抱き着こうとするが、それを必死で阻止する。


『テントの中だなんて、萌える。優香、もっと傍にきていいよ。腕枕してやろうか?』


「やだよ、変態!勝手に発情しないで。私や美子に変なことしたら許さないからね」


『変なことって、どんなこと?優香、照れちゃって可愛いな。狭いテントで密着してるのに、男として我慢するなんてムリ』


「……っ、一人でムラムラしないで。あなたは猫なんだからね」


『ちぇっ……』


 数分後、かめなしさんはあっさり爆睡した。喋らなければ寝顔は可愛いのに。


 いつまで、人間に見えるんだろう。

 早く、元の猫に戻って欲しい。


 眠れなくて、そっとテントを抜け出す。

 夜空を見上げると、ぽっかりと浮かぶお月様。


「なにやってんだよ」


 振り返ると、そこに立っていたのは、恵太……。


「……恵太」


「幽霊見たような顔すんなよ。眠れないのか?」


「……うん」


「俺も眠れないんだ。ちょっと散歩しない?」


「……散歩?」


「少し優香と話がしたい」


「……うん」


 私も恵太と話がしたい。

 美子の気持ち、恵太にわかって欲しい。


 二人でキャンプ場を歩く。

 暫く、無言が続いた。


「なぁ、優香」

「ねぇ、恵太」


 同時に言葉を発し、思わず顔を見合わせる。


「優香から言えよ」


「恵太から言いなよ」


 恵太はコホンと咳払いし、丸太のベンチに腰を下ろした。薄暗い外灯に虫が群がっている。


「今日はごめん」


「……恵太」


「俺……。矢吹と優香が付き合ってるなんて知らなくて」


「……それは」


「矢吹が優香や洋子の気持ちを弄んでいるのが許せなかったんだ。でも、優香が矢吹のことを好きなら、仕方ないのかな」


「……恵太は、美子のことどう思ってるの?」


「美子?美子は俺の幼なじみ、親友だよ」


「そうじゃなくて、異性としてどう思ってるの?美子はね、恵太のことが好きなんだよ」


「美子が……?まさか……」


「美子の気持ちを大切にしたいの。恵太が美子のこと好きなら……」


 恵太は私を見つめ、溜息を吐いた。


「美子の気持ちって、なに?俺の気持ちはどーすればいいんだよ。俺はずっと、優香のことが好きだったんだ。矢吹よりも、ずっとずっと前から、優香のことが好きだったんだ」





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