53

「ほらほら、お肉が焦げちゃうよ。せっかくみんなで集まったのに、楽しくやろうよ。カンジ、一人で食べてないで、みんなにビール配って。真砂美、オチビちゃんにオレンジジュースあるからね」


「あっ、うん。ありがとう」


 カンジがみんなにビールを配り、真砂美は子供達にオレンジジュースを渡す。


「矢吹君と優香が付き合ってることは、私、聞いてたんだ。洋子と矢吹君は同じスポーツクラブなんだよね?恵太が考えてるような関係じゃないんだから。一人でカリカリしないで。乾杯しよ」


 洋子は完全にむくれてる。

 恵太も完全にむくれてる。


 矢吹君の告白と、琴美の発言に、私は顔を上げることが出来ず俯いたままだ。


 ふと隣にいた美子に、目で助けを求めた。

 いつもなら、優しく声を掛けてくれる美子が、浮かない顔をし視線を合わせようとしない。


『あーあ、アイツのせいで、バーベキューが台無しだな。優香が好きだなんて、みんなの前で告白するなんて、サイテーだよ。俺がいるのに、優香と付き合えると思ってんの?』


 空気が読めないのは、かめなしさんの方だよ。


 松野君の乾杯の音頭で、みんなはビールを飲みバーベキューを堪能する。アルコールが弱い恵太が、次々とビールを空にする。


 矢吹君が私の傍に来て、「ごめん」って小声で呟いた。


「私こそ、イヤな思いをさせてごめんね。恵太と同じテントで大丈夫?」


「大丈夫だよ。もう喧嘩はしないから」


 矢吹君と初めてのキャンプ、ビールが何倍も苦く感じられた。


 ――バーベキューを終え、険悪だったムードが、小さな子供達と一匹の猫により徐々に和む。


 子供と小動物は、それだけで癒される。


 かめなしさんの正体が見えている私以外は……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る