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「きゃっ、可愛い~!優香、猫連れて来たの?」


「ね、猫!?」


 琴美に言われ振り向くと、私のバッグからニョキッと顔を出したかめなしさん。


 ていうか、いつの間にバッグの中に入り込んだのよ!


「優香、かめちゃん連れて来たの?」


 連れてくるはずないでしょう。

 何で、キャンプ場にいるのよ!


「釣ったニジマスはお買い上げだからね。焼き場で焼いて食べようね。かめちゃん」


『うん、うん』


 かめなしさんはホラー映画の怨霊みたいにバッグから手を出し、ニョキニョキと這い出す。


 よくこの中に入れたな。

 やっぱり、妖怪に違いない。


「こんなところにいたのか……」


 矢吹君は少し驚いたみたいにかめなしさんを見つめ、ポツリと呟いた。かめなしさんは矢吹君を見て一瞬ギョッとしたが、フンと鼻を鳴らした。


 ―釣りぼり―

 釣り竿を垂らすと、次々とニジマスは釣れる。入れ食いだから簡単に釣れるはずなのに、私の竿は一向に釣れる気配はない。


『優香、下手くそだなお前、昼飯抜きだぞ』


「うっさい。抜きで結構。おむすび持って来たから、平気だもん。ていうか、話し掛けないで。私が変な目で見られるでしょう」


「優香、全然釣れてねーじゃん。ほら、やるよ」


 私のバケツに、自分が釣ったニジマスを三匹入れてくれた恵太。恵太のバケツは空っぽになる。


「恵太、お前まだ連れねーのかよ。下手くそ」


「うっせぇ」


 カンジにからかわれ、恵太は再び釣り竿を池に垂らした。


 優しいんだか、意地悪なんだか、わかんないよ。離れた場所で釣っていた矢吹君が、私に近付く。


「上原、もう三匹釣ったのか?凄いな」


「や、矢吹君……!?」


「俺、ニジマスと相性悪いみたい」


 矢吹君のバケツは空っぽだ。


「くすっ、私と一緒だね。私も相性悪いみたい。これ、恵太がくれたんだ」


「中原が?だったら、俺も頑張る」


 矢吹君は私の隣で、釣り竿を池に垂らす。私も一緒に釣り竿を垂らす。


「お兄ちゃんとお姉ちゃん、結婚してるの?」


「えっ?えっ?違うよ」


 真砂美の長男奏兵そうへい君に問われ、思わず赤面する。


「違うの?僕のパパとママ結婚してるんだよ。だから僕が生まれたの」


 僕を授かったから、パパとママは結婚したんだけど。二人は今も変わらずラブラブで、ステキな夫婦だ。


 矢吹君の釣り糸がピクピクと揺れる。


「お兄ちゃん!魚、魚!」


「うわわ、本当だ」


 やっと吊り上げたニジマスは、恵太がくれたどのニジマスよりも大きかったが、かめなしさんが瞬時に口に咥え奪い去った。


 矢吹君のニジマスを咥えたかめなし。

 許さないんだから。

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