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 ―千葉県 オートキャンプ場―


 都内から約一時間車を走らせ、オートキャンプ場に到着する。


「四区画借りてるから、テントも四つね。真砂美は家族でひとつ使っていいよ。あとは男子と女子に分かれよう。大型テントは男子、あと二つは女子で三人ずつ分かれよう」


「うん」


 結局、ひとつは洋子と恵、ひろこ。もうひとつは私と美子と琴美で使用することになった。


 矢吹君と恵太が同じテントだなんて不安があるけど、カンジや宏一、琴美の彼氏もいるから喧嘩にはならないだろう。


「琴美、彼を紹介して」


「うん、松野君!」


 松野君?

 車から降り立った男性は高身長で筋肉質。でも、その容姿を見ても私には誰なのかわからなかった。


「紹介するね。レオナルドズの松野球児まつのきゅうじさん」


 松野球児……?

 あ、あの松野球児?


 高校野球で世間の注目を浴び、プロ野球レオナルドズに第一指名された左腕のピッチャー。


「ま、まじで。大阪最強学園高校の松野球児!?」


 恵太達が歓喜の声を上げた。


「レオナルドズの松野球児です。まだ2軍だけど、宜しくお願いします」


「ていうか、俺達より年下だよな。琴美、どこで知り合ったんだよ」


「松野君は二十歳になったばかりだよ。私、プロ野球が好きなんだ。二軍の追っかけしていて、親しくなったんだよ」


 追っかけしていて、プロ野球選手と付き合えるなんて、流石、琴美だ。松野君のお陰で、みんなは矢吹君よりも松野君に注目している。


「じゃあ、テント張ったら、マス釣りしよ」


 隣接する四区画にテキパキとテントを張り、ゾロゾロとマス釣りに向かう。高校卒業してすぐにデキ婚をした真砂美は、三歳の男児と一歳の女児のママだ。


 旦那様は同級生。

 同じ高校の野球部のエース、平一兵たいらいっぺい。プロ野球選手を夢見ていた一兵は、夢よりも真砂美と子供を選び、運送会社に就職した。


 野球をしていただけあって、すでに松野君と野球の話しで盛り上がっている。


 ワイワイとハシャイでいる仲間達。

 矢吹君は洋子と恵に挟まれ、私が近付く隙はない。


「どうなってんの?矢吹君って、優香の彼氏じゃなかったの?」


 琴美がヒソヒソ声で話し掛ける。


「みんな同じスポーツクラブだから。友達なんだよ」


「ふーん。でも、イケメンだね。超カッコイイ。モデルか俳優みたいだね」


 琴美はうっとりした眼差しで、矢吹君を見つめた。


『どこがイケメンなんだ。俺の方がよっぽどイケてるよ』


「……は??」


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