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「上原は家族と仲が良いのか?兄弟はいるの?」
「私は一人っ子なんだ。両親とは仲良い方だと思うけど。最近、ぎくしゃくしてる」
「ぎくしゃく?」
「私ね、まだ内定取れてないの。大学卒業したのに、やりたいことが見つからなくて。何やってんだか、自分でも嫌になる。矢吹君は就職決まったの?」
「俺?好きなことをして収入は得たけど、まだ方向性は決まってない」
えっ……?それってバイト?
まだ、内定取れてないんだ。
方向性が決まってないなんて。
私と同じなのかな?
「俺達、まだ二十代だよ。みんなが就職するからって、焦らなくていいんじゃない?上原が本当にやりたいことが見つかるまで、じっくり考えればいいんだよ。俺なんて、ずっと迷いっぱなし。何度挫折したかわかんないからね。この俺が国を飛び出すなんて、両親は思ってもなかったはずだ」
何度も挫折……?
国を飛び出す?両親は海外在住なのかな。
両親との意思疎通が上手くいかないなんて、私はまだ恵まれている……。
「……ありがとう。少し気分が楽になった。今日のメンバーで内定取れてないの私と恵太だけだから。肩身が狭いっていうか、落ち零れた気がしてたんだ」
「中原も就職決まってないのか?」
「恵太には将来の夢があるみたい。何がしたいのか私には教えてくれないけど、これから採用試験受けるみたい」
「ふーん。意外としっかりしてるんだな。周囲に流されないなんて、ちょっと見直した」
「そうかな。幼なじみの私にも言えないなんて、よほど自信がないのかも。恵太は勉強得意じゃなかったし、臆病でヘタレで、それでいて生意気なんだから」
矢吹君の前で、私、何言ってんだろう。
幼なじみの悪口いうなんて、サイテーだ。
恵太のこととなると、つい向きになる。恵太は私の兄弟みたいな存在だから。将来の夢を秘密にされてることが腹立たしくもあり、ちょっと寂しい。
「相変わらず仲がいいんだね。羨ましい」
えっ……?
どこが……?
「全然仲良くなんてない。ただの幼なじみなんだから」
矢吹君は運転に慣れているのか、恵太よりもハンドルさばきは上手い。助手席は居心地がよく、ヒヤヒヤすることもないのに、私は自分の発言にヒヤヒヤしてる。
なにテンパってるんだろう。
車内には洋楽が流れ、海外生活が長かったことが感じられた。
私にはメロディーしか伝わらない。
英語の歌詞がわからないから。
でも矢吹君には歌詞が全部わかっているんだろうなと、思うと、私とは住む世界も、価値観も違うのかなと思ってしまう。
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