【3】干物系女子に突然のモテ期到来? 摩訶不思議。
37
「……洋子」
「俺達、さっきスポーツクラブの前で逢ったんだ。一人だったから、一緒にお茶してただけだよ。よかったら、一緒にどう?」
「えっ?いいの?」
洋子はそそくさと矢吹君の隣に座った。
恵は私の隣に座る。
せっかく二人きりだったのに、洋子に大切な場所を奪われた気分。
「優香、いつも三人一緒なのに、美子と恵太において行かれたの?美子は駅前の本屋に行くって言ってたよ」
「……そーなんだ。二人を探してたんだ。私、置いて行かれたみたい」
気まずさから思わず立ち上がる。
矢吹君が『えっ?』って顔で、私を見上げた。
「今から行けば間に合うよ。バイバイ、優香」
洋子に追い払われるように、私は矢吹君に会釈する。
「……じゃあ俺も」
言葉を言い掛けた矢吹君に、洋子がたたみかける。
「矢吹君、ジムってどんな感じ?」
「まだ始めたばかりだからね。有酸素運動とか、筋力トレーニングしてる。インストラクターにサポートしてもらってるんだ」
「ふーん。私もスイミング辞めてジムに変更しようかな。そうしたら矢吹君と一緒にいられるし」
矢吹君を見つめる洋子の熱い眼差しに耐えられなくて、私はカフェを出る。
初めてのデートだと言ってくれた矢吹君。そのデートが数分で終わった。
自転車に跨がり、自宅方面に走る。
駅前の本屋には行かない。
せっかく美子と恵太が二人きりでいるのに、美子の邪魔をしたくないから。
自転車を走らせ十分。
バッグの中で携帯電話が音を鳴らす。
自転車を止め、バッグから携帯電話を取り出した。
『上原、どこにいるの?』
「……矢吹君」
『やっとカフェから出た。駅前まで走ったけど、上原いなくて……』
矢吹君は私が本屋に行くと思ったんだね。
「……ごめんなさい。今、家に帰ってる途中なんだ」
『なんだ。残念だな。金曜日、スポーツクラブに来る?』
「うん」
『金曜日にまた逢えないかな?ここじゃなくて、別の場所で。また邪魔されたくないから』
「……ごめんなさい。多分キャンプの買い出しがあるから、金曜日は無理かも」
『そっか。それなら仕方がないな。またメールするよ』
「……うん。バイバイ」
引き返せば、逢えないことはない。
でも、引き返す勇気がなかった。
誰にでも優しい矢吹君。
洋子の熱い眼差しに、淡い恋心が怯んでしまったのだ。
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