35

 いつものように、平泳ぎ、クロール、背泳と自由に泳ぐ。気になるのは二階のジムだ。恵太が余計なことを言わなければいいけど。


 途中休憩を挟みながら、一時間泳ぐ。


 スイミングのあと、携帯電話を確認すると、矢吹君からメールが入っていた。


【わかった。中原には黙っておくよ。今日、二人で少し話せるかな?この間のカフェで待ってる。】


 えっ……?

 二人だけで……?


 スポーツクラブは自転車で通っている。

 美子には本当のことを言えたとしても、恵太には言えないよ。


 どうしよう……。


「優香、誰から?」


 美子にメールを見せる。


「カフェに行きたいんでしょう。わかった。恵太は私が何とかする」


「いいの?」


「優香の恋、応援したいから」


「……美子」


「洋子や恵が来る前に、早く行きなさい」


 まだ完全に乾いていない髪のまま、更衣室を飛び出し、恵太がいないことを確認し、隣接するカフェに飛び込み、抹茶ラテを頼む。


 しまった。

 自転車は駐輪場に置いたままだ。


 ……大丈夫かな。


 カフェの一番奥の席に座り、メニューで顔を隠し駐輪場を観察する。


 スポーツクラブから美子と恵太が出てきた。恵太は私の自転車を見つけ、美子に何か言っている。


 恵太がカフェに視線を向けた。

 思わず、テーブルの下に隠れる。


 暫くして、恵太と美子が自転車に跨がり、二人で走り去った。


 美子がどんな嘘を吐いて、恵太を納得させたのかわからないけど、取り敢えず一安心だ。


 数分後、スポーツクラブから矢吹君が出てきた。今日はスポーツブランドの黒いシャツに、ベージュのパンツ。どこにでもあるファッションなのに、矢吹君が着るとまるでモデルみたい。


 それに比べ、今日の私はブルーのTシャツにブルージーンズ。かなりダサい。


 矢吹君は入店すると私を見てにっこり笑った。カウンターでアイスコーヒーを頼み、そのまま席に近づく。


「ごめん。待った?中原が帰るまで、様子見てたら遅くなった」


「ぜ、全然待ってないよ。今、来たところ」


 緊張してストローをくわえると、ズズッと音が鳴った。矢吹君を待ってる間に、抹茶ラテは飲み干してしまったのだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る