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「まさか、琴美に矢吹君のこと彼氏だって言ったの?」
私はコクンと頷いた。
美子は目を丸くした。
「本当に付き合ってるんだ」
「ち、違うの。そう言わないと、琴美が許可しないから、つい……嘘を……」
美子は小さな溜息を吐く。
「優香、恵や洋子も行くんだよ。あの二人の前で、嘘なんて通用しないでしょう。あの二人は矢吹君のファンだから、同行に反対はしないだろうけど、完全に反感はかうね」
「……だよね。どうしよう」
「矢吹君は優香のこと好きみたいだから、喜んで彼氏を演じてくれるだろうけど。優香の気持ちはどうなの?」
「矢吹君は友達だよ。……でも、矢吹君といるとドキドキするし、電話もらうと嬉しいし、キャンプも一緒に行きたい」
「……そっか。じゃあ、別にいいんじゃない?問題は恵太だよね。恵太が知ったら、きっと反対するよ。『こいつはマルメゾンワールド高校の理科部じゃねーだろ』って」
「矢吹君には、当日まで言わないでってさっきメールした」
「そっか、当日なら反対も出来ないもんね」
「あのね、美子。矢吹君が車出せたら、私と洋子と恵で一緒に乗るから、恵太の車には美子と二人で乗りなよ」
「どうして?」
「恵太は鈍感だから、美子の気持ち話さないと気付かないよ」
美子は競泳用の帽子を被りながら、視線を逸らした。
「優香、私と恵太のことは気にしなくていいから。自分のことだけ心配しなさい」
美子と私の間に、見えないシャッターが降りた気がして、それ以上は言えなかった。
美子が何故か怒っていたからだ。
穏やかで温厚な性格の美子が、恵太のこととなると意地を張る。私は美子に幸せになって欲しいのに。
ガヤガヤと賑やかな話し声がして、恵と洋子が更衣室に入って来た。
「美子、優香、今日は早いんだね。ちょっと聞いてよ。さっきロビーで矢吹君に逢ったんだ。これ、奢ってもらっちゃった」
洋子はスポーツ飲料を私達に見せ、自慢している。
「私ももらっちゃった」
恵も同じスポーツ飲料を手にし自慢気だ。
矢吹君は誰にでも優しい。
先週逢ったばかりの二人にも、こうして奢ってくれる。
もしかして、みんなの携帯番号聞いてるのかな?
私だけが特別なんかじゃない。
いいな、スポーツ飲料。
矢吹君からもらったスポーツ飲料。
私、もう少し遅く来ればよかった。
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