32

 私はかめなしさんをスルーし、琴美にLINEする。


 矢吹君がキャンプに行きたいと言ったから。ううん、違う……。


 私が矢吹君と一緒に行きたいと思ったから。


 琴美からはすぐに返信があった。


【それは、優香の彼氏なの?彼氏ならいいよ。優香の彼氏に逢ってみたいし】


 矢吹君が……

 彼氏!?


 琴美のLINEにポチポチと返信を打つ。


【矢吹君は彼氏じゃない……】


 途中まで打ちかけて、その手は止まった。もしも彼氏じゃないとLINEしたら、琴美はダメだと言うかもしれない。


 矢吹君と一緒にキャンプに行くためには、彼氏だと嘘を吐いた方が得策かも。


【……まだ付き合い始めたばかりなんだ。彼がキャンプに行きたいって……。ダメかな?】


【全然ダメじゃないよ。私も彼氏同伴するし。去年の彼とは別れたから、違う人だけど。宜しくね】


 まじで?

 もう別れたの?


 琴美らしいな。


 でも、よかった。


【ありがとう。でもね、当日までみんなに内緒にしたいの。宜しくお願いします。】


【内緒?みんなを驚かせる作戦?優香に彼氏が出来たなんて、みんなドヒャーだよ。その作戦、乗った。連れておいで。じゃあ、またね。】


 よかった……。

 これで一緒に行ける。


 私はウキウキしながら、矢吹君にメールをした。


【こんばんは。一緒にキャンプに行けることになりました。来週の土日だから。スケジュール空けといてね。千葉のオートキャンプ場だから。詳細はまたメールする。】


【それ、本当?嬉しいな。楽しみにしてる。また月曜日に、スポーツクラブで。】


【うん。おやすみなさい。】


【連絡ありがとう。おやすみ。】


 思わず両手を上げ「やったー!」と叫んだ。


『なに浮かれてんだよ』


「……っ、まだいたの?」


『なんだよ、冷たいな』


 同じ部屋に青年がいる。

 それは、猫なんだけど。


 飼い猫が青年って、やっぱり乙女としては、微妙……。


 ◇


 ―月曜日―


「優香、早くしろよ。何してんだよ」


「はいはい。わかってるよ。恵太は煩いんだから」


 矢吹君とスポーツクラブで逢う。

 それだけで、洋服選びに気合いが入る。


 お洒落なんて全然気にしない私だけど、Tシャツにジーンズではあまりにも干物感がありすぎて、暗い色を避け洋服をアレコレ選んでいたら、どんどん時間は経過し部屋中洋服だらけになった。


 まるで片付けられない女子の部屋だ。


 結局決まらず、恵太にせかされ、いつもの青いTシャツとブルージーンズになってしまった。


『優香、全身青だよ。鯖か?食いつきたくなるな』


「……うっさい」


「散々人を待たせて、うっさいはないだろう。全身青コーデだなんて、お前は鯖か?」


 恵太まで『鯖』とは、発想が猫と同じレベルだな。


「何度も同じこと言わないで。美子、行こう」


「何度もって、一回言っただけだろう。人を待たせて逆切れって、なんなんだよ。なあ、かめもそう思うだろう」


 恵太はブツブツ文句を言いながら、かめなしさんの頭をポンポンと叩いた。


『うわ、叩くなって。俺は男が嫌いなんだよ。ねぇ、美子。もう行っちゃうのか?淋しいな。俺も美子や優香と泳ぎたいよ。美子の水着姿、超セクシーなんだろうな』


「変態」


「優香、どうかしたの?かめちゃん。またね。行ってきまーす」


 美子は彼をギュッて抱き締め、頬にチュッとキスをした。目尻を下げてデレデレしているかめなしさんに、妙にイラッとした。


 結局、女なら誰でもいいんだ。

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