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私はかめなしさんをスルーし、琴美にLINEする。
矢吹君がキャンプに行きたいと言ったから。ううん、違う……。
私が矢吹君と一緒に行きたいと思ったから。
琴美からはすぐに返信があった。
【それは、優香の彼氏なの?彼氏ならいいよ。優香の彼氏に逢ってみたいし】
矢吹君が……
彼氏!?
琴美のLINEにポチポチと返信を打つ。
【矢吹君は彼氏じゃない……】
途中まで打ちかけて、その手は止まった。もしも彼氏じゃないとLINEしたら、琴美はダメだと言うかもしれない。
矢吹君と一緒にキャンプに行くためには、彼氏だと嘘を吐いた方が得策かも。
【……まだ付き合い始めたばかりなんだ。彼がキャンプに行きたいって……。ダメかな?】
【全然ダメじゃないよ。私も彼氏同伴するし。去年の彼とは別れたから、違う人だけど。宜しくね】
まじで?
もう別れたの?
琴美らしいな。
でも、よかった。
【ありがとう。でもね、当日までみんなに内緒にしたいの。宜しくお願いします。】
【内緒?みんなを驚かせる作戦?優香に彼氏が出来たなんて、みんなドヒャーだよ。その作戦、乗った。連れておいで。じゃあ、またね。】
よかった……。
これで一緒に行ける。
私はウキウキしながら、矢吹君にメールをした。
【こんばんは。一緒にキャンプに行けることになりました。来週の土日だから。スケジュール空けといてね。千葉のオートキャンプ場だから。詳細はまたメールする。】
【それ、本当?嬉しいな。楽しみにしてる。また月曜日に、スポーツクラブで。】
【うん。おやすみなさい。】
【連絡ありがとう。おやすみ。】
思わず両手を上げ「やったー!」と叫んだ。
『なに浮かれてんだよ』
「……っ、まだいたの?」
『なんだよ、冷たいな』
同じ部屋に青年がいる。
それは、猫なんだけど。
飼い猫が青年って、やっぱり乙女としては、微妙……。
◇
―月曜日―
「優香、早くしろよ。何してんだよ」
「はいはい。わかってるよ。恵太は煩いんだから」
矢吹君とスポーツクラブで逢う。
それだけで、洋服選びに気合いが入る。
お洒落なんて全然気にしない私だけど、Tシャツにジーンズではあまりにも干物感がありすぎて、暗い色を避け洋服をアレコレ選んでいたら、どんどん時間は経過し部屋中洋服だらけになった。
まるで片付けられない女子の部屋だ。
結局決まらず、恵太にせかされ、いつもの青いTシャツとブルージーンズになってしまった。
『優香、全身青だよ。鯖か?食いつきたくなるな』
「……うっさい」
「散々人を待たせて、うっさいはないだろう。全身青コーデだなんて、お前は鯖か?」
恵太まで『鯖』とは、発想が猫と同じレベルだな。
「何度も同じこと言わないで。美子、行こう」
「何度もって、一回言っただけだろう。人を待たせて逆切れって、なんなんだよ。なあ、かめもそう思うだろう」
恵太はブツブツ文句を言いながら、かめなしさんの頭をポンポンと叩いた。
『うわ、叩くなって。俺は男が嫌いなんだよ。ねぇ、美子。もう行っちゃうのか?淋しいな。俺も美子や優香と泳ぎたいよ。美子の水着姿、超セクシーなんだろうな』
「変態」
「優香、どうかしたの?かめちゃん。またね。行ってきまーす」
美子は彼をギュッて抱き締め、頬にチュッとキスをした。目尻を下げてデレデレしているかめなしさんに、妙にイラッとした。
結局、女なら誰でもいいんだ。
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