28
――帰宅すると、かめなしさんが玄関でジッと座っている。まるで陶器の招き猫のように、片手で手招きし、身動きひとつしない。
今日はかめなしさんのくだらないギャグに付き合ってる気分じゃない。
私はかめなしさんをスルーし、靴を脱ぎ家に上がる。
『まじか。スルーはないだろ。せっかく笑わせようと思ったのに』
「笑えないよ。だって猫に見えないし。招きネコ耳されても、ドン引きだし」
『俺の気持ち、分かっているくせに……。冷たいな』
私の体に擦り寄り、スリスリ背中を擦り付けるかめなしさんに、ゾワッと鳥肌が立つ。
「やだ。やめてよ。それ人間社会では、立派なセクハラだからね」
私は思わず顔をしかめる。
『なんでだよ。猫の最高の愛情表現だよ。親愛なる証。腹見せゴロゴロポーズは服従の証』
かめなしさんは床に寝転がり、わざとシャツをめくりあげお腹を見せゴロゴロ寝転がる。私には、アブナイ人にしか見えない。
「……あのさ、今、猫じゃないから」
『それって、俺のこと、人間だと認めてくれてるんだよな?』
「まさか、私にしかその姿は見えないんだよ。強いて言うならば、猫耳妖怪かな」
『うわ、イケメンの俺が猫耳妖怪……。まじ、ヘコむ』
猫なのに、ガックリ頭を垂れてうなだれた。猫耳までうなだれている。
猫耳妖怪は、ちょっと可哀相だったかな?
だけど……
可愛いと思っていたかめなしさんが……
毎日ハグしたり、チューしていたかめなしさんが……
大人の男性だったなんて、どう接すればいいのかわかんないよ。
もしも、猫に戻ったとしても……
この姿を見てしまった私としては、以前と同じように接する自信はない。
「かめちゃん。はい、ご飯ですよ」
母がいつものように猫缶を与えるが、かめなしさんはチラッと器を見ただけで食べない。
完全に拗ねている。
ありえない……。
私の方を見てガックリと項垂れ、背中を丸めた。
何やってるの……。
ハンガーストライキでもするつもり?
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