26
プールで一時間泳ぎ、シャワーを浴びる。
「優香、今日元気ないね?もしかして矢吹君のこと?」
「違うよ。この間受けた印刷会社に撃沈しただけ」
「……そっか。優香なら大丈夫、次、頑張って」
「……うん」
『頑張って』と言われることが苦痛。
もう十分頑張った。
精根尽き果てちゃったよ。
更衣室を出ると、そこには……。
美子が矢吹君に気付き、「えっ…?」って声を漏らす。
矢吹君……
来てたんだ。
私達より、早く来ていたのかな。
「上原、待ってたんだ」
上原……。
名字からポロリと敬称が取れ、妙に親近感が増す。
「……矢吹君こんにちは。来てたんだね」
「今日は少し早めに来たんだ。ジムから上原が見えたから、ここで待ってたんだ」
美子が半ば呆れたように、矢吹君を見ている。恵太が背後からガンッとぶつかり、矢吹君を押し退ける。
「わりーな。優香はチャリだし、俺達と一緒に帰るんだよ。な、優香」
矢吹君が一瞬ムッとした。
「みんな自転車なんだ。じゃあ、みんなでお茶しない?そこのカフェでどう?」
困った……。
どうしよう……。
断る理由が見つからない。
ていうか、心が『行くっ!』って叫んでる。
「……じゃあ、少しだけ」
「優香、まじで?優香が行くなら俺も。美子も行くだろ」
「……うん」
四人でスポーツクラブの隣にあるカフェに入る。それぞれがアイスコーヒーやコーラを頼み、四人でカウンター席に座るものの、恵太はずっと矢吹君を睨んでいる。
緊迫した空気に、ゴクンゴクンと咽が鳴る音だけが、妙に鼓膜に響く。
「お前さ、優香のなに?」
気まずい空気を打ち破ったのは、恵太だった。
「何って、月曜日に友達になったから、もっと上原と話がしたいと思っただけだよ」
「月曜日にちょっと話しただけだろ。それで友達?もう呼び捨てかよ。俺と優香はずっと友達だったんだ。お前が入り込む隙はない」
……は?
恵太、何言ってんの?
「一回話したくらいで、馴れ馴れしいんだよ」
矢吹君は黙ってコーラを飲んでいる。
「長く一緒にいたからって、それが何?出逢ったばかりでも、通じるものがあれば、友達にも恋人にもなれる」
「こ、恋人ー!?そんなもん、なれるか」
美子が恵太の腕をムンズと掴んだ。
「恵太、やめなよ。矢吹君と友達になるかどうかは、優香が決めることでしょう。私達は付き添い。余計な口は挟まない」
「美子、こんなやつに優香取られていいのかよ」
「取られる?優香は私達の親友だよ。取られるとか、何言ってるの?恵太、変だよ」
「……わかってるよ。ふん」
恵太は鼻の穴を広げ、口をへの字に結んだ。
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