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 結局、こちらから矢吹君に折り返し電話をすることが出来なかった。


 何を話せばいいのか、わからなかったからだ。


 携帯電話に矢吹君の着信履歴だけが残った。


 火曜日も水曜日も木曜日も、矢吹君からの電話はなく、毎晩その着信履歴を見つめながら深い溜息を吐いた。


 美子は矢吹君の第一次印象がよほど悪かったのか、矢吹君からの電話を伝えたら、『そんな電話無視すれば?矢吹君は確かにかっこいいけど、あのチャラ男と一緒に、いつもナンパしてるんだよ。それに、スポーツクラブでいきなり優香に声を掛けてくるなんて、信じらんない。私は軽い男は嫌い、優香らしくないよ』と、たしなめられた。


 そうだよね。

 美子のいうことは、いつだって正論。


 私と同じ歳なのに、精神年齢も外見も私とは比べものにならないくらい大人だし、落ち着いてる。一発で内定取れるのもわかる気がする。


 私は見た目も童顔だし、精神年齢も低いし、就活はグダグダだし、全然ダメだね。


 ◇


 ―金曜日―


 スポーツクラブ当日、私はソワソワと落ち着かない。美子と恵太がいつものように家に誘いに来た。


『美子、今日も美人だね』


 かめなしさんは美子にスリスリしながら、いつものように甘える。


 本当によくやるよ。


 かめなしさんの本当の姿を知らない美子は、ギューッと抱き締め抱擁している。


『美子、胸が当たってるよ。照れちゃうなぁ』


「……っ、変態!美子、行こう」


「えっ?優香?どうしたのよ?変態って私のこと?それとも恵太のこと?」


「うわ、どうして俺が変態なんだよ!」


 かめなしさんの姿も、かめなしさんの声も、誰にも聞こえない。この不思議な能力で、得をしているのか、損をしているのか、全くわからない。


 いや、わかってる。

 大損をしているのだ。


 ――スポーツクラブに到着した私は、無意識のうちに矢吹君の姿を探したが、矢吹君は一階のロビーにはいなかった。


「洋子と恵は今日来てないみたいね。優香、行こう」


「……うん」


 更衣室で水着に着替え、プールに飛び込む。泳ぎながら二階のジムを見上げたが、そこに矢吹君の姿はなかった。

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