25
結局、こちらから矢吹君に折り返し電話をすることが出来なかった。
何を話せばいいのか、わからなかったからだ。
携帯電話に矢吹君の着信履歴だけが残った。
火曜日も水曜日も木曜日も、矢吹君からの電話はなく、毎晩その着信履歴を見つめながら深い溜息を吐いた。
美子は矢吹君の第一次印象がよほど悪かったのか、矢吹君からの電話を伝えたら、『そんな電話無視すれば?矢吹君は確かにかっこいいけど、あのチャラ男と一緒に、いつもナンパしてるんだよ。それに、スポーツクラブでいきなり優香に声を掛けてくるなんて、信じらんない。私は軽い男は嫌い、優香らしくないよ』と、
そうだよね。
美子のいうことは、いつだって正論。
私と同じ歳なのに、精神年齢も外見も私とは比べものにならないくらい大人だし、落ち着いてる。一発で内定取れるのもわかる気がする。
私は見た目も童顔だし、精神年齢も低いし、就活はグダグダだし、全然ダメだね。
◇
―金曜日―
スポーツクラブ当日、私はソワソワと落ち着かない。美子と恵太がいつものように家に誘いに来た。
『美子、今日も美人だね』
かめなしさんは美子にスリスリしながら、いつものように甘える。
本当によくやるよ。
かめなしさんの本当の姿を知らない美子は、ギューッと抱き締め抱擁している。
『美子、胸が当たってるよ。照れちゃうなぁ』
「……っ、変態!美子、行こう」
「えっ?優香?どうしたのよ?変態って私のこと?それとも恵太のこと?」
「うわ、どうして俺が変態なんだよ!」
かめなしさんの姿も、かめなしさんの声も、誰にも聞こえない。この不思議な能力で、得をしているのか、損をしているのか、全くわからない。
いや、わかってる。
大損をしているのだ。
――スポーツクラブに到着した私は、無意識のうちに矢吹君の姿を探したが、矢吹君は一階のロビーにはいなかった。
「洋子と恵は今日来てないみたいね。優香、行こう」
「……うん」
更衣室で水着に着替え、プールに飛び込む。泳ぎながら二階のジムを見上げたが、そこに矢吹君の姿はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます