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かめなしさんは無言だ。
部屋に入りベッドに腰を降ろすと、かめなしさんもベッドの端に飛び乗った。
『どうした?さっきまでルンルンだったのに、一気に奈落の底か?パパのいうこと、気にしてんの?人間の世界も大変だな。けど、就職の内定取れないからって、家から追い出されるわけじゃないし。そんなに落ち込まなくていいんじゃない?脳天気な優香らしくない』
「脳天気ってなによ。マルメゾンワールド大学の就職内定率知ってるの?九十九パーセントなんだよ。私は就職出来なかった一パーセントなんだから」
『希少な逸材だな。気にしてるなら、パパのコネ使えばいいのに。変なとこで意地張るからだよ』
「だって。パパに借り作りたくないし。パパのコネなら、途中で辞めることも出来ないし」
『辞めるの前提で就職するのか?くだらねー』
「私、やりたいことが見つからないの……。夢がないから、『専業主婦になりたい』って、ずっと友達に言ってきた。それも満更嘘じゃないけど、内定決まった友達と一緒にいると、会話についていけないし、どんどん置いていかれる気がして……」
『そっか。俺なんてやりたいこといっぱいあるけど、自由に出来ないんだぜ。仲間とも音信不通だ』
「……仲間?」
野良猫の仲間かな?
『今、一番やりたいことは、優香とチューだろ。優香とハグだろ。優香と一緒にお風呂に入って、優香とベッドイン』
「へ、変態!」
『人間になれたら、猛勉強して、仕事探して、優香を守れるような逞しい男になって、優香に……』
かめなしさんが私を見つめた。
その真剣な眼差しに、トクンと鼓動が跳ねた。
かめなしさんは人間の姿に見えるけど、ネコ耳だってあるし、尻尾だってあるみたいだし、ドキドキするなんてどうかしてる。
――ブーブーブーブー
携帯電話が音を鳴らし、視線を逸らす。
『なんだよ。イイトコだったのに、邪魔すんなよ』
携帯電話には『矢吹君』の文字。
「う、嘘!?」
私は携帯電話を持ったまま、アタフタしている。
「どうしよう、どうしよう、矢吹君だ」
『ヤブキ……!?嫌いな奴なら電源切れば?』
「そんなこと出来るわけないでしょう。矢吹君なんだよ。嫌いなわけない……」
『何がヤブキだ。その携帯電話ガジガジ噛んでやる。貸せ』
「や、やだ。噛まないで。バカ」
かめなしさんと携帯電話を奪い合ってるうちに、電話の着信音は切れてしまった。
――最悪だ……。
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