19

 ―ワンダフルスポーツクラブ―


 いつもこの時間は空いているのに、一階のロビーがやけに混雑している。


 どうしたんだろう。


 不思議がっていると、前列に並んでいた女子が振り返る。


「優香、おはよう。ニューフェースだよ。知ってた?」


 友人の秋元恵あきもとめぐみは、すでにテンションが上がっている。


「えっ?ニューフェース?知らないよ。男子?女子?」


「勿論、男子に決まってんじゃん。さっき洋子ようこが、噂してたんだけど、帰国子女で数カ国語ペラペラらしく、かなりのイケメンだよ。その彼が入会手続きしてるっていうから、女子がロビーに殺到しちゃって」


「なんだ。それでこの騒ぎ?くだらないな」


「何言ってんの。超、カッコイイんだってば」


「本当なの?いつも新しい人が入るたびに、噂になるけど、期待外れだったりするでしょう」


「今回は、洋子が太鼓判押すだけあって、間違いなし」


 宮地洋子みやぢようこと恵は、同じ大学の生活科学部だった。就職内定組で洋子は証券会社、恵は保険会社。二人とも四月から花のOLだ。


 洋子は面食いで、学生の頃から男に関してはかなり煩い。実際、イケメンには目がない。


 後ろにいた恵太が、私達の会話に聞き耳を立てる。


「くだらねーな。優香、自販機で珈琲飲もうぜ。俺が奢ってやっから」


「自販機?珈琲はいらない」


「いいから」


 列から弾き出された私。

 渋々、恵太に従う。


 自販機の前に立っていたら、背後で「キャー」と、黄色い声がした。


 思わず、振り向くと……

 男子と目が合った。


 どこかで……

 見たような……。


 トクンと鼓動が跳ねる。

 彼がこちらに近付いてくる。


「自販機、ここにあったんだ。女子が凄くて、入会手続きも落ち着かない。ジムは二階だよね?更衣室とかシャワールームも二階なのかな」


 ふんわりとした黒髪が……

 入口から吹き込む春風に靡いた。


 黒目がちな大きな瞳が、私を見つめている。


「俺、矢吹貴やぶきたかし。宜しくね」


 彼はぶっきらぼうに名乗ると、自販機にコインを投入し、スポーツ飲料のボタンを押した。


 ――あの目……


 ――昨日の原宿の……!?


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