20

 ガチャンと音が鳴り、取り出し口にスポーツ飲料が落ちる。


 まさか、スポーツクラブで再会するとは思わなかった。


 帰国子女だなんて、海外で暮らしていたのかな。だとしたら、この近くに住んでいるのだろうか。


 恵太が矢吹君に声を掛け、右手を差し出した。


「宜しく。俺もジムだから」


 でも、矢吹君は恵太をスルー。


「なんだ、感じ悪いな……」


 恵太は手を引っ込め、矢吹君を睨んだ。


「今日からですか?ジムは二階です。更衣室もシャワールームも二階に完備しています。恵太もジムに行くから、恵太に案内してもらえば……」


 矢吹君は、私の事を覚えてないのかな?


「二階なんだ。ありがとう」


 矢吹君がスッとスポーツ飲料を差し出した。


「……えっ?私?」


「教えてくれたから。やるよ」


「えっ?えっ?」


 女子の視線が集中し、スポーツ飲料を手にして固まる私。これはどう解釈すればいいのかな?


 矢吹君は恵太に背を向け、一人で二階に上がる。


「優香、あの人……どこかで見たような……。気のせいかな」


 美子はまだ、矢吹君が昨日のナンパ男だと気付いてはいないようだ。


 ◇


 私と美子はダイエットを兼ねて、スイミングのフリー遊泳コースを始め三月で一年になる。


 体力が付き風邪はあまり引かなくなったが、泳いだあとの甘いスイーツが病みつきになり、ダイエット効果はイマイチだ。


 プールは一階にありガラス張りで、上階からも見える造りになっていて、二階のジムからも見ることが出来る。


 私はコースを自由に泳ぎながら、矢吹君が気になって落ち着かない。


 休憩タイムになり、美子達と一緒に、プールサイドのベンチでスポーツ飲料を飲む。


「それ、彼に貰ったんだよね。いいな、私も優香みたいに自販機の前に突っ立っていればよかった。ジムの説明しただけでプレゼントしてもらえるなんて、優香、物欲しそうに彼のこと見てたんでしょう。色目使ったの?厭らしい」


 洋子の言葉は棘がある。

 前世はサボテンに違いない。


 私は別に物欲しそうにしていたわけじゃないし、矢吹君に色目を使ったわけでもない。大体、色目の使い方がわからないから、未だに彼氏がいないのだ。


「矢吹君のスポーツ飲料、私にちょうだい」


 洋子が矢吹君から貰ったスポーツ飲料を奪い取り口にする。


「うわ、狡いな。私にもちょーだい」


 ていうか、それフツーのスポーツ飲料だし。矢吹君の飲みかけでもないし、女子同士で間接キスしてるだけじゃん。


 ふと、二階を見上げるとガラスに近づきプールを見下ろしている人影が……。


 えっ……恵太?


 違う……矢吹君だ……!?


「きゃあ、見て見て。矢吹君が、私を見てる」


 洋子が顔を真っ赤にし、興奮気味に叫んだ。私が貰ったスポーツ飲料を振り回し、矢吹君に猛アピールしている。


 矢吹君はこちらに視線を向け、右手を上げた。


「きゃあ、見て見て。私に手を振ってる」


「凄い、洋子。矢吹君ともう親しいなんて。いいなあ」


 恵は羨ましそうに、洋子を見つめた。


 あたしは水着姿を見られることが恥ずかしくて、タオルで胸元を隠し思わず俯いた。



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