【2】飼い猫に唇を奪われた? 摩訶不思議。
18
――翌日、恵太と美子が私を誘いに来た。大学在学中に女子の間で減量のためにスポーツクラブに通うことが流行り、私も週二でスイミングに通っている。
スポーツクラブは自転車で二十分の距離だ。
いつものように玄関で、見送っていたかめなしさんに、二人はいつものように声を掛けた。
「かめちゃん、おはよう!」
かめなしさんは美子の体に擦り寄る。
背中を擦りつけご満悦だが、かめなしさんが人間にしか見えない私には、美子にスリスリしている姿が変態にしか見えない。
でも美子は嬉しそうに、かめなしさんの頭や首を撫で回している。これもまた、私には変態にしか見えない。
「かめー!おはよう!」
恵太が二人に分け入り、かめなしさんの頭を乱暴に撫でた。
『またお前か。相変わらず空気読めない奴だな。やめろ、俺に触れるな。髪が乱れるだろう。時間掛けて髪の毛を整えたのに台無しだ』
髪の毛?ぷっ、猫なら毛繕いでしょう。
ていうか、二人には本当に猫に見えてるのかな。
私は思わず、二人に視線を向けるが、かめなしさんを見つめる二人は、いつもと同じで違和感はない。
『俺は男は嫌いなんだよ』
かめなしさんはフンと鼻を鳴らし、手櫛で髪を直す。
「優香驚いた顔をして、どうしたの?昨日からなんか変だよ」
「いや……別に。恵太、かめなしさんが嫌がってるよ。触るなって」
「えっ?何の事だよ?尻尾振って喜んでんじゃん。なあ、かめ。俺のこと好きだよな。嫌いだなんてほざいたら、もう煮干しやんないぞ」
かめなしさんが私を見て、呟いた。
『尻尾振ってないし。猫が煮干し好きだなんて、勝手に決めつけるな。どうせくれるなら、だし用の煮干しより、オヤツいりこにしてくれよな』
「くくっ、恵太、今度からオヤツいりこにしろってさ」
「は?オヤツいりこ?それなら、俺が食うっつーの。野良だったくせに、贅沢だぞ」
『この首輪が目に入らないのか。今は飼い猫だ。それ、いつの話だよ。
あのさ、優香も俺の話したこと、いちいち恵太にチクらなくてもいいから』
どうやら、チクられては都合が悪いみたいだ。
「優香、もう行こう。かめちゃん、またね」
『美子、もう行っちゃうのか?寂しいな。気をつけて行けよ』
まるで恋人を見送るように、かめなしさんは美子を見つめた。
昨日私に告白し、強引にキスしたくせに、どうして美子にベタベタするかな。
八方美人の猫なんて、サイテーだよ。
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