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「愛を深めたい?本気で言ってるの?」


『そうだよ』


「どうしてもキスして欲しいなら、ママにしてもらえばいいでしょう。パパも頼めばしてくれるよ」


『うわっ、パパはナイだろう。酒と煙草にまみれたキスは勘弁だ。それに、俺は男に興味ないから。

 あーあ、俺の唯一の楽しみだったのにな。俺とのキスを拒否るなんて、あり得ねーよ』


「勝手に楽しみにしないで。猫に戻ったらしてあげる」


『だから、猫だってば。一回で我慢する。一回だけならいいだろう』


「一回だけ?」


『うん、一回だけ』


 かめなしさんに顔を近づける。

 クンクンと匂いを嗅ぐと、確かにかめなしさんの匂いがする。いつも使ってる猫ちゃんシャンプーの匂いだ。


『そんなに焦らすなよ』


 かめなしさんが両手を広げ私に抱き着こうとした。私は瞬時に身を交わす。


「やっぱり無理。ファーストキスは……好きな人としたいから」


『もう何度もしてるだろう。優香のファーストキスの相手はだ』


「ち、違うわ。アレは猫とキスしたのよ。ファーストキスじゃない」


 ファーストキスが猫だなんて最悪だ。

 プイッと背を向け、リビングのドアノブを掴む。


 背中越しに、かめなしさんの声がした。


『優香……』


 やだ、まだ言ってる。


『俺は本気だ。初めて逢った時からずっと好きだった。俺のファーストキスは優香だ。優香のこと、誰よりも愛してる。俺達は両想いだと思っていた。でも違ったようだな』


 当たり前でしょう。

 なに……言ってるのよ。


 猫と人間の間に恋愛は成立しない。


『でも俺は諦めない。神が優香に俺の真の姿を見せてくれたんだ。俺は必ず優香の愛を取り戻す』


「……はっ?真の……姿?」


『俺に、夢中にさせてやるよ』


 彼はいきなり私の腕を掴み、体を引き寄せ……


 少しざらついた舌で……

 私の唇を奪った。

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