15

 ドアを開けると、玄関にかめなしさんが正座していた。ちゃんと三つ指ついて、私を出迎えている。


 かめなしさんの姿を見て、慌ててドアを閉める。


 すっかり忘れていた。

 かめなしさんはまだ人間の姿をしている。


 やだ、いつまで人間に見えるの?

 もう、勘弁してよ。


 いつもなら『かめなし可愛い〜』って、首をなでなでして、だっこしてチューするんだけど。


 人間の姿をしているかめなしさんに、は出来ない。


 かめなしさんは猫だ。

 人間ではない猫だ。


 そう心に言い聞かせ、ドアを再び開ける。


『優香、お帰り。優香がいない間、超、寂しかったよ』


 かめなしさんの視線を感じつつ……

 かめなしさんを避け、靴を脱ぐ。


『なになに?優香、ただいまは?いつものは?ほら、


「いつものって、何?家は定食屋じゃないんだけど」


とぼけちゃって。かめなし可愛い〜って、だよ』


「やだ。毎日、そんなこと楽しみにしていたの?」


『一応な。優香と俺のコミュニケーションだし。挨拶だろ』


が嬉しいんだ……」


 確かに、いつも首をなでなでしてあげると、ゴロゴロと喉を鳴らして嬉しそうにしてる。気持ちいいのかな。


 彼の首に手を伸ばす。

 彼は期待したように首を伸ばし、目を細め喉をゴロゴロ鳴らした。


 喉仏が上下し、私は思わず手を引っ込める。


「やっぱり、やめとく。だって、かめなしさん猫じゃないし」


『俺は猫だよ。ほら、いつもみたいにゴロゴロいってんじゃん』


 「雷みたいに、喉をゴロゴロ言わせないで。あのね、かめなしさんが人間に見えて、オマケに会話出来るのは、私だけなんだよ。こんなことパパやママに気付かれたら、私が精神的に病んでると思われるでしょう。パパやママの前で、私に話しかけないでね」


 実際、これが幻覚や幻聴なら完全に病んでるし。


『冷たいな。いつも優香の愚痴や悩みを聞いてやってるだろう。せっかく会話出来るのに、自由に話も出来ないなんて、つまんねーよ。もっと優香のこと知りたいし、もっともっとを深めたい』

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