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この摩訶不思議な現象を、受け入れざるを得なくなった私は、非現実的な世界から、現実世界に逃避するため、この家から逃げ出した。
◇
―原宿―
電車で向かった先は原宿。
頭を切り替え、かめなしさんのことは脳内から消し去り、美子とたわいない話をしながらプラプラと街を歩く。
気負わずにいられるのは、美子が幼なじみだから。気心も知れ、一人っ子の私が、姉妹のように慕い、最もリラックスできる相手。
私と美子は、幼稚園の頃からの幼なじみだ。実は私には、美子の他にもう一人幼なじみがいる。それは中原
私達3人は幼稚園から大学まで共に一緒で、この春、マルメゾンワールド大学を仲良く卒業した。美子は経済学部、恵太は法学部、私は生活科学部だった。
美子は早々と夢を掴み、恵太は夢を掴むためにこれからチャレンジする。
恵太の夢は何なのか、未だに幼なじみの私達にも教えてはくれない。ヘタレのくせに、強情なんだから。それとも採用試験に落ちることが怖いのかな。
本当に打たれ弱いんだから。私なんて何連敗もしている。
内定がもらえない私は、将来の夢は『専業主婦』ということにしている。就職なんかしないで、大好きな人のために美味しいご飯を作り、3食昼寝付きで、一日中パジャマを着て、猫のようにごろごろぬくぬく暮らしたいという願望は、満更嘘ではないからだ。
私だって、今の状況に焦りを感じないわけではない。大学を卒業し学生でなくなった私は、4月から無職なのだから。
本音をいうと、美子や恵太みたいに、やりたい仕事が見つからない。自分がどんな仕事に向いているのが、どんな仕事がしたいのか、未だにわからない。
彼氏もいないし……。
大人になっても恋で潤うことも、愛で満たされることもなく、干からびたスルメのようにパタパタと世間の冷たい風に靡いている。
片想いでもいいから、好きな人がいれば、スルメがイカ焼きくらいにはなれるんだけど。それも叶わぬ夢。
幼なじみで大親友の美子。
美子の片想いの相手は、恵太。
恵太の事が、子供の頃から大好き。
告白したら、幼なじみの関係が壊れてしまうと、美子はいうけれど、私的には『もういいんじゃない?』って、感じ。
こんなことで、幼なじみの関係が壊れるはずはないもの。
「ねぇ美子。もうすぐ恵太の誕生日だよ。誕生日に告白すれば?」
「だって、告白したら気まずいよ。もう一緒に遊べないよ」
「どうして?恵太なら大丈夫だって。ずっと一緒だったし。恵太だって、美子の事が好きに決まってる。私にはわかるんだ」
「そう……かな?」
美子にハッパをかけながら、恵太の誕生日プレゼントを探す。
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