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 美子は彼の頬を両手で包み、チュッチュッとキスをしている。彼は黙ってそれを受け入れている。


 あのおとなしい美子が、な、なんと大胆な。


 ていうか、恥ずかしくて見ていられない。


『美子のキスは優しいね。唇も柔らかくて気持ちいい。もう一度、キスして欲しいな』


「わ、わ、美子!だめだよ!離れて!」


 美子と彼を引き離し睨みつける。


『こわっ……。美子からキスしてきたんだよ。俺からしたわけじゃないし』


「美子に『もう一度、キスして欲しいな』って言ってましたよね?」


『何だ、妬いているのか?社交辞令だよ。優香のキスが一番だよ。わかってるくせに』


 彼は私に唇を突き出す。


「うわわ、寄るな触るな、喋るな」


 バタバタと両手をバタつかせ抵抗していると、背後からトントンと肩を叩かれた。


「……優香、朝寝坊してたんでしょう。寝癖ついてるし、変な夢見たの?やだな、かめちゃんが怯えてるよ」


「美子、私は寝ぼけてなんかいない。彼は確かにイケメンだけど、変態なんだよ」


「は?彼?変態?かめちゃんは猫だけど」


「だから騙されないで。日本語ペラペラ話してるし。エッチなことばかり言ってるんだから。猫じゃなくて、獣族だよ」


「獣族?ニャーしか言ってないけど。かめちゃんの夢見たの?かめちゃんが人間になった夢見たんだ。超イケメンだったんでしょう。いいな、私も人間になったかめちゃん見てみたい」


 ま、じ、で?


 彼の本性を知らない美子は、彼にギューッと抱き着いた。


『美子はDカップだな。優香、完全に負けてるね。俺は優香くらいの掌に収まるサイズが好きだけとさ』


「……っ、掌サイズで悪かったわね。ど変態!」


 思わず怒鳴った私。

 美子がポカンと口を開け、私を見つめた。


 どうやら……

 これはテレビ番組のドッキリではなさそうだ。


 母にも美子にも、彼は猫に見えるらしい。


 彼がエロい俺様男子に見え、彼と話が出来るのは、幸か不幸か私だけのようだ。

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