『寝るなら、俺も……』


 彼はモゾモゾと布団に潜り込み、私を両手で抱き締める。彼と目が合い、思わず悲鳴を上げた。


「きゃあー!変なことしたら、セクハラで訴えるからね!」


 もしも警察に駆け込んだとしても、こんな事、誰も信じないよね。


 飼い猫が人間の姿となり、日本語を話しているなんて。正気の沙汰ではない。


 夢なら早く覚めて欲しい。

 お、ね、が、い!


「とにかく、あなたはベッドから降りて下さい。今後、このベッドに上がることは認めません。不満があるなら、家から出て行ってくれてもかまわないわ」


『そんなこと言うなよ。ベッドはふかふかだし、優香の体も柔らかくてぷにぷにだし、俺、好きだよ。とくにそのオッパイ、あまり大きくないけど、弾力と張りはある。枕にするには最適だよね』


「……っ。まくら……」


 彼の言葉に思わず赤面する。

 彼は私の胸に擦り寄った。


 猫ならば許容範囲だけど、彼は人と同じだ。私の胸に顔を埋めるなんて、そんなハレンチなこと、絶対に許さないんだから。


「私に指一本触れたら、訴えるからね」


『何言ってんの?これ愛情表現だから、優香は俺のこといつも可愛いって、言ってくれるのに。どうしたんだよ』


「そ……それは、猫だったから……」


『今もだよ』


「今は猫じゃないでしょう」


だよ。にゃお~』


 彼はペロッと、私の頬を舐めた。

 少しざらついた舌、その感触は確かに猫のかめなしさんだ。


 何度もペロペロされて、擽ったくて首を竦める。


 彼は本当にかめなしさんなの?


 私の……かめなしさんなの?


「ひいいー……っ!いつまで舐めてるのよ」


『くくっ、体が疼いて我慢出来ない?我慢しなくていいよ。俺が満たしてあげる』


 彼は私の首筋に鼻を近づけて、クンクンと臭いを嗅いでいる。外見は人間だが習性は猫のままだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る