最終話「その意志を再装填せよ」
ニューヨークでの戦いは終わった。
そして、
その中へと、
沈黙を破って、
「まずは御苦労! ティアマット
統矢達、フェンリル小隊……
そして、
まるで、飼い主を失った
失意という名の首輪に
だが、そんな中でも冷たい声が
「特務三佐、至急補充要員を。……指揮権は私が、隊長代行として引き継ぎます」
統矢は耳を疑った。
それは、
そう認識できるのに、まるで別人のように聴こえる。
彼女は凍れる無表情で部下達を見渡す。
その視線に思わず、泣く子も黙るベテラン達が声をあげた。
「お
「そうだ!
「俺達ゃ戦争の犬だ。パラレイドと好きで戦争やってんのさ。で、稼ぐだけ稼いで、あとは死ぬだけ。だが、お嬢は違う。違ってほしいんだよ!」
だが、詰め寄る男達の前で雅姫は、
表情を失った
正しく、
「残存の隊員全員に通達! 最後にもう一度だけ、意志の確認を……今なら、降りれます。正規の陸軍への復帰、希望するなら退役……特務三佐、お願いできますね?」
「いいとも。
「では、確認します。我が聯隊で戦いたい者だけ残りなさい。それは、私に命を預けて、私の命令で死ねということです」
見たくはなかった。
実際、
ほんの少し前まで、一緒に戦っていた。
海軍と陸軍の
そして、統矢は思い出す。
死んでいい人間など、この世に一人しかいない。
自分と同じ名の
そんな覚悟が空気に
「ん、大丈夫だ……れんふぁ。俺は、死なない。そしてもう、誰も死なせない……つもりだ。でも」
「統矢さん。統矢さんは、絶対にいなくならないでくださいね? わたしの前からも、千雪さんの前からも。みんなの前からも、絶対」
「……わかった、約束する」
雅姫は明日の同じ時間、改めて意志の確認をすると言った。
だが、そこに答を悩む男達はいなかった。
終わらぬ戦争はまだ、広がりながら続く。
誰かが言った……この絶望的な物量差の中、圧倒的戦力に追い詰められてゆく
「総員っ、雨瀬雅姫聯隊長代行に! 敬礼っ!」
「よろしい。諸君の命をもらいます。欠員と損失機の補充を持って……我々ティアマット聯隊は、完全に特務機関ウロボロスの指揮下に入る。……
雅姫はそれだけ言うと、行ってしまった。
まるで別人だ……以前は、クールながらもどこか優しさや
そこにはもう、以前の統矢と同じ
そして、癒やしをもたらしてくれる人間は永遠に去ってしまったのだ。
「統矢さん……」
「大丈夫だ、れんふぁ。けど……こんなのって、痛っ!」
不意に、背後からヘッドギアで叩かれた。
振り向けば、いつもの緩い笑みを浮かべた辰馬がいる。その目は
彼もまた部隊の隊長として、戦死した総司と同じ運命を
そして、統矢は知っている。
同じ局面で辰馬は、迷うことすらないだろう。
そんな気がして、言葉に詰まる。
だが、無理にへらりと笑って、辰馬は再度統矢の頭を小突いた。
「安心しな、統矢。俺ぁお前らの命なんざいらねえよ。しっかし、おー
「辰馬先輩」
「俺ぁ疲れたから、少し休むわ……お前等も休め休め、はいはい、解散。かいさーん!」
それだけ言って、辰馬の背中は通路の向こうへと行ってしまった。小走りに追いかける
そして、そんな彼女がビクリ! と身を震わせた。
パイロットスーツ姿の辰馬が消えた先で、合金製の壁が殴られる音が響いた。
慌てて桔梗は、泣きそうな顔で行ってしまった。
ぽつねんと残された統矢は、やりきれない思いで
こんな時、寄り添うれんふぁのぬくもりがひたすらありがたかった。
「……そうだ、俺の機体……【
「あっ、統矢さんっ! あの、回収できる分は、全部積み込んだって」
「奥、だよな? ちょっと見に行く、けど……一緒に、いいか? れんふぁ」
「あっ、当たり前だよぉ、もう! 統矢さん、今、凄く、すっごく! 弱ってる、から」
身を寄せてくるれんふぁと共に、格納庫の奥へと歩く。
どの機体も皆、大なり小なり損傷していた。防御力がウリの97式【
ただ一機だけ、まるで残骸の中に立つような姿が痛々しく思える。
だが、目の前に開けた光景は痛みを超えた苦しみを統矢の
「俺の……【氷蓮】」
「統矢君」
振り返る千雪の向こうに、大破して
97式【氷蓮】サード・リペアは、もがれた片腕を抱くようにして安置してあった。その全身を取り巻く包帯のようなスキンタービンも、あらかた
統矢の目にも、はっきりとわかる。
全損……修復の手間とコストで、新しいパンツァー・モータロイドを用意してお釣りがくるレベルだ。
そして、再度認識する。
手間や時間、コストといったものでは
「
「……その名前、連呼せんといて」
「何でありますか? 瑠璃殿。もっと大きな声で、元気よくでありますぞ、瑠璃殿!」
「ああもう、うっさいわあ! ちょぉ、千雪ー! この
彼女が整備して、改修し、強化した機体だ。
それをこんなスクラップにしてしまったのは、統矢なのだ。
だが、彼女は黙って手を動かす。
そして、瑠璃に代わって【氷蓮】の背後から登って、俯く頭部から声が降ってきた。
「ちょっと、統矢!
「ラスカ……お前」
「アンタ、アタシに
「俺が……生きて、る」
それを思い出させるように、れんふぁが腕を抱きしめてくる。
そして、千雪は迷いのない声でハッキリと統矢に告げてきた。
「この子は、直ります。治すんです。また、私達で」
「千雪、お前まで……」
「統矢君が……本当にりんなさんを失った痛みを忘れるまで。本当にこの子を眠らせてやれる日まで、私達が支えます。だから……今はまだ、終わりにしてはいけないんです」
千雪の
無数の
その手を包んで
ならば……その日が来るまで、決して立ち止まってはいけない。
千雪が拳に覚悟を握り締めて、無数の敵を
「……何から手をつければいい? 千雪」
「まず、統矢君は心身を休めましょう。れんふぁさん、ついててあげてください。私は……この子に少しついてます。沙菊さんのチェックリストもチェックしないといけませんし。……いつも、細かいミスがありますので」
「わかった。じゃ、あとでな」
「ええ、また。……必ず、また」
れんふぁが大きく
三度擱座した愛機は、物言わぬ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます