第23話「対峙し相克するは、自分」
「抜いたッ! ここは……
愛機に生えて広がる翼の光が、そのオレンジ色の輝きが消えてゆく。
グラビティ・エクステンダーで受信できるエネルギーには、限りがある。フルパワーで仕えば、180秒ほどで尽きてしまうようだ。【氷蓮】の背で、バシュン! と音を立ててシステムが冷却ハッチを
しばらくは使えそうもない。
だが、おかげで敵の中枢深くへと統矢は辿り着いた。
そして……足元の光景に改めて、パラレイドの正体を
『敵機侵入! 第八格納区だ、保安員を!』
『駄目だっ、機体を回してくれ! 損傷機も奥へ退避、退避ーっ!』
『艦内のシステムを一部カット! 艦内の防衛部隊は現場へ急行せよ!』
足元に今、人間達が走り回っている。
必死の
今まで、統矢達がパラレイドを見てきた、あの
それを受ける統矢は、はっきりと認識した。
やはり、パラレイドの正体は人間……違う世界線の未来から来た同じ地球人なのだ。
「クソッ、どけどけぇ! ウロチョロしてると踏み潰すぞ!」
言葉にできぬ
狭いコクピットの中で、残酷な現実に統矢は
巨大な【グラスヒール】を引きずる【氷蓮】の
そこには、圧倒的な物量差に押し潰されてきた自分達の過去が重なった。
だが、容赦せず統矢は【グラスヒール】から二丁の大型拳銃を引き抜く。
極力人間を踏まぬようにして、周囲に待機した機体を次々と破壊していった。
「どれだけの量を搭載してるんだ……ッ! 新手が来たか!」
警報と共に隔壁が閉じる中、奥から無数のアイオーン級がやってくる。
人型でパイロットが操縦するエンジェル級は、出てこない。
どうやらこのサハクィエルに搭載されている兵器も
統矢は迷わず敵の中へと飛び込んだ。
強力な光学兵器を持つパラレイドに対しては、白兵戦が有効だ。無人兵器といえども、同士討ちを避ける。無人だからこそ、システムは安全マージンの許容範囲内でしか戦えない。
そして、今の統矢は一人ではなかった。
『
『よっしゃ、
『ラジャーッ!』
背後に頼もしい声が響く。
そして、狙いすました砲撃が統矢の左右に巨大な火柱を
同時に、白亜に輝くフェンリル小隊の
恐らく皆、各自突破口を切り開いて侵入したのだろう。
「辰馬先輩っ! 他は!」
『ティアマット
「あんまり突っ走らないでくださいよ! 俺、
『ヘッ、言うじゃねえか、統矢! ここはいい、奥へ行けっ!』
奥からは一回りも二回りも大きい、砲戦タイプのアカモート級が姿を現す。高出力の大口径ビーム砲を背負ったその姿が、統矢をロックオンする直前に
背後からの狙撃は、
そして、
『ほらっ、統矢! 行って! ぼやぼやしてると
「お、おう……サンキュな、ラスカ」
『な、何よ……勘違いしないでよねっ! アンタ見てるとイライラすんだから! だから、さっさと行けって言ってるの! ……もやもや、するじゃんか』
あまりにも一方的、舞うような
頼もしい仲間達に背を押され、統矢は
「……こりゃ、まさに
道中、巨大な区画を通過した。
それは、戦艦の中にいることを忘れさせる空間だった。
ベルトコンベア状のラインが並ぶ中で、今も稼働を続ける……それは、パラレイドの
必死で逃げ惑う人間達に目を
戦闘を想定していない場所だけあって、あっという間に火の海になった。自動消火装置が可動するのを
違う世界、違う時代の者達とはいえ、人間の死が装甲越しに統矢を
だが、
やがて、何度かエンジェル級と遭遇して撃破する先に……先ほどとは違う格納庫が現れた。そして、そこには攻撃用とは異なるシャトルらしき機体がエンジンを暖めている。
何かしらの
『97式【氷蓮】……懐かしいものだ。改めて目にすると、あの日の怒りと憎しみが思い出されるよ』
声が、響いた。
そして、統矢は見た。
奥のフロアに、兵士達に守られた一人の男がこちらを見上げている。
それを見た瞬間、統矢は言葉をかなぐり捨てる声を
「摺木統矢ぁぁぁぁっ! 未来の俺……いやっ! 違う俺の可能性! お前は……お前はあ! 生かしてはおけないっ!」
身を
死を覚悟し、一秒でも時間を稼ごうとする銃弾が
目を見開く統矢の視界には……未来から来た過去の自分がいた。
そう、パラレイドの
そこには幼い顔立ちに
「そうか……俺も、いや、あんたもっ! リレイド・リレイズ・システムを!」
『そうだ。我が
「抜かせっ! どんな大義名分があろうと、なあ……他者に犠牲を
ゆっくりと統矢が、【氷蓮】に銃を構えさせる。
この
ビームの
だが、無限に分岐して存在する過去と未来の、その無数の中の一つを選ぶことはできない。本来は、不可能だ。しかし、それを限定的に可能にするのがリレイド・リレイズ・システムである。
『
「
思考が吹き飛ぶ中で、激情が込み上げる。
だが、今まさに統矢が一度全てを終わらせようとした瞬間……背後から銃撃が襲った。
『統矢様っ! 今、行きます! お守りします……この身、この命に
『レイル・スルール大尉、ありがとう。アレの使用を許可する。すまないね、私のかわいいレイル。さあ、
振り返る統矢の【氷蓮】を、小さな翼が
先程撃破した、メタトロン・エクスプリームのコアユニットだ。メタトロンは特殊なセラフ級、始まりのセラフ級と呼ばれている強力な
そして、統矢は高い天井を見上げた。
小さな戦闘機でしかないコアユニットが、変形しながら光を放った。
『統矢っ! 統矢様はやらせない……統矢様はボク達の希望! 人類の
「寝言は寝て言えっ! 俺達の世界を
格納庫の両脇で、厳重にシーリングされていたコンテナが爆発した。
そして……ゆっくりと変形しながら巨大な構造物が持ち上がる。
それは、
顕になる頭部には、ツインアイの上に口を開けた砲口がまるで第三の目だ。張り出た肩や胸は、先程のメタトロン・エクスプリームよりさらに重装甲に見える。
レイルの絶叫が、二つのパーツを空中へと吸い寄せた。
『はあああっ! Aパーツ、Bパーツ……フルコントロール! 合体っ! メタトロン・ゼグゼクス!』
阻止を試みた統矢の射撃が、
合体時の攻撃をレイルは、DUSTER能力による可能性の
そして、ズシリと全高20mクラスの
以前にもまして
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