第24話「未来を、叩け!」
再び新たな姿へと合体した、その名はメタトロン・ゼグゼクス。以前のメタトロンが
戦慄に震えながらも、
「どけぇ! レイルッ、そいつを……俺を、殺させろぉぉぉぉっ!」
『させないっ! 統矢様は、ボクの、ボク達の、希望なんだっ!』
振り上げた【グラスヒール】が風を切る。
ありったけの力で叩き付けた、
三倍近いサイズ差、そして何十倍もの質量差があった。
だが、今の統矢にはその全てが無意味なものだ。
見守る誰もが思った筈だ。DUSTER能力者同士の、極限の戦い……それは、ただただひたすら無防備をぶつけ合う、脚を止めての殴り合いだ。お互いに全ての動作が予測でき、その全てに対応できる状況。それは皮肉にも『何も考えずにひたすら攻撃する』という
統矢とレイル、二人にしかわからない時間が圧縮されてゆく。
その中で、決してわかり合えない二人の溝が深まっていった。
『統矢、お前は知らな過ぎるっ! ボク達がどんな思いで異星人と、
「知らねえよっ! お前の過去は、俺達のこれからだ……お前達と同じ
『……なら。教えてあげるよ……統矢』
「何を……ガァッ!?」
力と力は互角、ともすれば統矢が押していたかもしれない。
だが、互いが駆る機体の差は
マッシブな巨体を使って、レイルはジリジリとプレッシャーをかけてくる。
その、当たれば即死という攻撃の中に踏み込まねば、こちらの攻撃は届かない。
そして、危険な
メタトロンは軽々と片手で、【氷蓮】の腕を掴んで吊し上げた。
「クッ! 右腕部のラジカル・シリンダーが、死ぬっ! クソォ!」
『統矢……統矢は、さ……お腹の中、
「右手が動かない! 【グラスヒール】がっ」
ガラン、と乾いた音を立てて大剣が落ちた。
しかし、ミシミシと軋む機体の中で、統矢は警告音と真っ赤な光に包まれていた。モニターを埋め尽くす警告メセージの奥で、メタトロンの双眸が光る。
どうやら新型のメタトロンは、頭部に高出力のビームキャノンが搭載されているらしい。
死を呼ぶ光の中で、レイルの声が凍ってゆく。
『死ねないんだよ? 統矢……奴等の実験動物になると……死ぬことすらも、許されない』
「……悪ぃ、【氷蓮】ッ! あとで
メタトロンにぶら下げられたまま、統矢は決断した。
全身を使って【氷蓮】は、自らの右腕を引き
見上げれば、既に
『溶液の中で、生かされ続けて……色々、実験されるんだあ。ボクは、ボクはね……膨らんだお腹から、出てきたよ。何だと思う?』
「……レイル、お前は」
『人間じゃ、なかったよ……それはね、ボクのお腹で育った、奴等の!』
転がる【グラスヒール】を拾いながら、統矢は【氷蓮】の傷付いたボディを投げ出す。
同時に、メタトロンから
周囲を真っ白に染める、圧倒的な火力。
その中で統矢は、不気味な笑い声を聴いていた。
自分の声がここまで
『フハハハッ! そうだ、レイル大尉。お前は連中に
「くっ、そがあああああああっ!」
内側から完全に破壊され、サハクィエルが崩壊を始めた。
だが、その中で多くの兵達に守られながら……パラレイドの
そして、白煙を巻き上げながらメタトロンが見下ろしてくる。
「
メタトロンは、その手に握った【氷蓮】の右腕を捨てる。そして、背に突き出た
それをゆっくり、メタトロンが振り上げた。
既に溶けた金属の海と化して、足場は完全に失われたに等しい。今も崩落し続ける
『統矢君っ! 私の力を……この子の力を、使ってください!』
千雪の【ディープスノー】から、グラビティ・ケイジのパワーが流れ込んでくる。それを受けて、今までデッドウェイトでしかなかったグラビティ・エクステンダーが再び唸りを上げた。巨大な
『くっ、五百雀千雪……また邪魔を! どこだっ!』
『
メタトロンが振り返ると同時に、ドン! と巨体が揺らぐ。
それは、壁を壊さず貫通してきた衝撃だ。武道の心得があるので、千雪の拳は物質と空間を超えた先へと拳圧を『置いてくる』ことができる。いわゆる
そして、突き抜けた衝撃に遅れて、外側から壁がめくれ上がって引き裂かれる。
その影から、ゆらりと
頭部に走る六つの瞳が、メタトロンを
『そんなガラクタでぇ! ボクのメタトロンに勝てるとでも思ってるのか!』
『統矢君、そっちにパワーを回します……飛んでください!』
『またボクを無視してっ! お前は……どうしていつも、統矢にも統矢様にも付き
メタトロンは、こっちも見ずにビームの
片手で【グラスヒール】をぶら下げ、それを背の
チャンスは一度しかない……グラビティ・エクステンダーは一度作動させると、【氷蓮】に重力場を与え、機動力と運動性を飛躍的に向上させる。だが、それは180秒の間だけだ。
「れんふぁの時と重力場の色が違う……いやっ、今はいい!」
何度も行き交う構造物に激突し、機体が揺れる。
そして……真上に突き抜け、内側からサハクィエルを喰い破る。青い空の下へと飛び出て、統矢は眼下に巨体を見下ろした。
ゆっくりと、その人型に変形した
「させ、るっ、かあああっ! 【グラスヒール】、アンシーコネクト……モード
鞘ごと振り上げた【グラスヒール】から、限界を超えた光が天を
二丁のビームガンによる
そのまま統矢は、真っ直ぐサハクィエルへと運命の一撃を振り下ろす。
宿命の鎖さえ断ち切る、覚悟の斬撃だった。
100%の出力を大きく超えて、遥か彼方へと伸びる光の刃……それが、縦に巨艦を両断した。真っ二つになったサハクィエルは、爆発を連鎖させながら左右へ割れてゆく。
しかし、その中から
そして、大地に着地するなり、統矢を乗せたまま【氷蓮】は動かなくなった。
『統矢……ボクは、統矢様によってあの施設から救い出されるまで……地獄を見てきた。死ぬより辛い絶望の中、死ねない
「よせ、レイル! もうよせ……奴は逃げた……お前を置いて逃げたんだ」
『違うっ! 僕が逃したんだ! 統矢様は、これからの地球に必要な人! ボクに必要なひとなんだから!』
再びメタトロンの頭部が光を集め出した。
だが、【氷蓮】は既に動けない。
そして、周囲にはティアマット
セラフ級を前に、それは虚しい抵抗でしかなかった。
それでも、身動きの取れない統矢を見捨てようとする大人は、そこにはいなかった。
「やめろ、逃げてくれっ! 俺はもう動けない! 巻き込まれるぞっ!」
『黙ってろ、
『撃って撃って撃ちまくれ! 数秒でいい、奴の注意をひきつけろ!』
『
それは奇妙な光景だった。
チャージをしながら、重々しい足取りでメタトロンが歩み寄ってくる。
かつて
重金属の
「クソォ、もうやめろぉ! レイル・スルールッ!」
『統矢、なら……ボクと来いっ! 本当の敵は別にいるんだ、それを――』
不意にメタトロンが、振り向いた。
その視線の先で、暗い
フェンリルの
ズシャリと【ディープスノー】は、深海色の巨体を着地させる。
同時に、メタトロンの頭部が
『またかっ、五百雀千雪! ……まあいい、統矢様は無事だ。また来るよ、統矢……いつか、いつかは……統矢とは絶対、わかりあえるから』
『私とれんふぁさんの前で、そんな言葉……許しませんから』
『そうだった、れんふぁ様をたぶらかしたな……統矢様の大事な家族を!』
『れんふぁさんは統矢君と私の仲間で、これから家族を作るんです。戦争とか復讐とかは、貴女の小さな統矢様とやってください』
『グッ! 口数の減らない……フン! 統矢、またね……また』
崩れ落ちるサハクィエルを背に、メタトロンは変形して飛び去る。
それを見送りながら、統矢は物言わぬ【氷蓮】のシートに身を沈めた。安堵感よりも、絶望的な敗北感があった。目前の危機を脱した今だからこそ、終わらぬ戦いがすぐに元凶との再会を連れてくる。
それは多感な16歳の少年には、あまりにも重い
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