第16話「カウント・ダウン」
誰もが食堂で、
ある者は疲れた目で、そしてある者は
周囲を見渡し、刹那はゆっくりと言葉を選んだ。
「先程の戦闘で
刹那は手近な兵士にメモリーチップを渡す。
この時代、こうした電子機器、演算装置や記憶媒体が充実しているのは軍だけである。全世界規模で文明は百年ほど後退し、日本でも昭和中期レベルの生活水準をどうにか保っていた。
世界規模で整っていたネットワーク網も
そのことが逆に、
そして、食堂のモニターにノイズ混じりの映像が映し出される。
「これは……」
「さっきのあのデカブツだぜ!」
「なんてこった、次はニューヨークか!」
「どうする、あそこには旧国連ビル……人類同盟の
「
そして、1,200
映像はないが、その声を統矢は知っていた。
『同じ地球の
彼女が重々しく
これは恐らく、ニューヨーク上空から
謎の敵パラレイドの正体が、未来の自分達であるということを。
『
日本とニューヨークの時差は、14時間。
つまり、こっちが夕暮れ時なので、あっちは早朝だろう。
朝焼けの中に浮かぶセラフ級パラレイド、サハクィエル……その威容は恐らく、見る者全てに恐怖を等しく植え付けただろう。あるいは、同じ数だけの絶望も。
そして、静かで穏やかな声でもう一人の統矢が話し続ける。
『24時間後、サハクィエルの攻撃により……ニューヨークを
タイムリミットは24時間……この意味は?
統矢にそれを教えてくれたのは、気付けば隣に立っていた
「24時間……それが恐らく、人類同盟各国がパラレイドの真実を隠し通せる情報操作の限界ですね。幸いにも世界規模のオンラインネットワークはほぼ閉鎖状態ですので……古式ゆかしいテレビや新聞といったマスメディアを押さえ込めるのは、24時間が限界です」
「つまり、逆を言えば」
「はい。24時間以内にサハクィエルを撃破できれば……あとは各国の情報部が
千雪はいつもの
あの巨艦を、搭載された無数のエンジェル級もろとも24時間以内に
だが、やるしかない。
最後のチャンスをものにしなければ、地球の全人類は正式に知るだろう。
自分達を長らく
その時、戦いは新たな局面へと突入する。
そのことを口にしたのは、やはり刹那だった。
「今まで人類同盟軍は、この事実をひたすらに
刹那は
あどけない幼女の顔を、
「人類同盟を離脱し、単独でパラレイドと……摺木統矢と講和、停戦を交渉する国が現れる。
今の今までずっと、パラレイドの正体は伏せられていた。
統矢でさえ、ずっと謎の侵略者である以上の情報を持っていなかったのだ。自律型無人兵器群による、圧倒的な物量作戦。そして、一騎当千のセラフ級による、地球規模での破壊活動。人類にとって、正にパラレイドは脅威、天敵……戦闘は不可避に思われていたのだ。
だが、現実は違った。
同じ血の通った人間だと知れれば、対応も変わってくる。
財政的に苦しい国などは、単独での和平、不可侵条約などを考えるだろう。
そして、謎の敵が相手故に団結していた人類は、同じ人類と知れば対話を模索する中で
「貴様等にはこれから、ニューヨーク解放作戦に参加してもらう! 無論、強制はしない……志願者を
だが、誰も刹那に文句を言う者はいなかった。
そして、屈強な男達に背を押される形で、
「御堂刹那特務三佐、ティアマット
「フン……男の
「現在、ティアマット聯隊の97式【
「うん。作業を急がせろ。現在羅臼は太平洋上空を東進中……東海岸に上陸と同時に全機出撃、電撃戦でニューヨークのデカブツを
24時間後、ニューヨークの朝日を浴びるのはパレレイドか、それとも統矢達か。
人類同士、未来が過去を襲っているという真実を、再び秘めて守らねばならない。
確かに真実は、残酷であっても情報公開されるべき透明性が求められるだろう。だが、その内容によっては、知らないほうが幸せなことだってあるのだ。そして、不可避の戦争がどちらか片方の
そして、統矢自身が知っている。
自分だからはっきりとわかる。
今の統矢に
そうまでして異星人と戦う理由を、既に統矢は知っている……経験している気がした。
身を
逆隣の千雪も、おずおずと金属の手で触れてきた。
二人の手を握りながら、統矢ははっきりと刹那に告げる。
「特務三佐、話はわかった。俺は……連中を一人残らずブッ潰す! あんた等が情報操作したけりゃ、すればいい。俺は、例え相手が人間でも……容赦する気はさらさらない」
「フッ……いい気迫だ。よかろう! 貴様等、すまんが地獄に付き合ってもらうぞ」
誰も異論を挟まなかった。
そして、統矢の闘志も鈍らない。
冷たく硬い手の千雪といるから、彼女の失われた全てを
統矢の中で今、昔よりはっきりと戦う理由が定まり、それは揺るがない。そして、常に勝利を拾い続けて行けば……その先にきっと、自分との対峙が待っている。その時は迷わず
もう、刹那的な
機械のように淡々と戦う時間は終わりを告げた。
今、一人の人間として……統矢に再び憤怒と憎悪の火が
「では、予定通り
それだけ言って、刹那は
だが、彼女は食堂の出入り口に止まると、皆を一度だけ肩越しに振り返った。
「そうだ、言い忘れていた。次の作戦は私もパンツァー・モータロイドで出撃、参加する。もはや指揮所で叫んでいる段階ではない……貴様等が震えて
ニヤリと笑った刹那には、以前のような人を人とも思わぬ不快な緊張感がない。
ここにきて彼女もまた、一人の戦士へと立ち返ったのだろう。
そして、それを察したのは統矢だけではなかった。
居並ぶ
「総員、敬礼!」
統矢も、千雪やれんふぁと共に敬礼する。
それを見て、ニヤリと笑った刹那も皆へと向き直った。
敬礼する小さな女の子は、真っ赤な瞳に統矢と同じ
「貴様等の命、私が預かる。よって、最初の命令を与える……死ぬな。
それだけ言って、刹那は去っていった。
タイムリミットは24時間……あの巨大なサハクィエルを、移動時間も含めて24時間以内に倒さねばならない。その決死の戦いに失敗すれば、ニューヨークが消滅する。のみならず、ニューヨークを焼いた光は、そのまま地球を貫通してどこかの都市を消し飛ばすのだ。
今、未来へ抗う反攻作戦の
統矢もまた、決意も新たに最愛の者達と戦いに挑むのだった。
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