願いの対価

@blanetnoir

願いの対価




対価を払えば、願いが叶う。




何年も、十何年もあたためし舞い込んだ想いが、

時を経て、

再び揺れ動く。




どれ程の対価だろう、

もう会う術もなくなった、想い人にあの頃の想いを打ち明ける場が与えられるというチャンスは。



「貴方が差し出せるもののなかで、今いちばん大切なものを」



私が選んだもので問題ないという。




何があるだろう、



持てるものの中で考えてみる。



いま一番の望みを、叶えるための等価にあたるものなんて、あるだろうか?




ずっと、胸のうちにあったもの。

消えずに、動かずに、身体の奥底に沈みこんだもの。

このまま、自身の一部として生きていけばいいと思っていた。

形にする機会を得ないまま、

言葉にされないまま、

私だけが抱えればいいと。




(私の気持ちを、私が形にしてあげないなんて、私がかわいそう。)




誰かの言葉が不意をついた。




“次に進むために、必要な儀式という意味もあるかもね。”




真っ直ぐな視線が痛いほど眩しい人の言葉。




次に、進むために。





いつまでも、心の中に潜む


<あの時、こうしていれば>


裏返しの


<答えは闇の中>


黒い紙の上に黒いペンで、妄想のストーリーを書き連ね続けるような都合の良さ。



だからこそ、




形を得ない




質量のない苦しみで、その先の景色を眺めたまま、先に進むことが出来ずにいた。





風の噂で、あなたは先に進んだと聞いた時も、




それでも私は変わらず同じ心で。




ただ、十年以上の時間は、無駄に覚悟を決める余裕だけは与えてくれたかもしれない。




応えてほしいという欲が消え、


上手くいかないことは、まぁあることだと人生経験もついて、


あなた以外に、好きな人も何人かできた。


なにより、


私の想いを、ただ知って欲しいというわがままは、許されてもいいのだということも知った。




気がつけば、


人生の半分以上の時間が、

この愛に浸かりこんでいる。


人知れず、私の心の支柱となっていた想い。


一時は、私の生きる意味とさえ、思っていた。





だから、





そんな私が私のために、これからの人生を私らしく、


ここから進んでいくために。




今、願っても叶わないような、こんなスペシャルな願い事を叶えてくれるチャンスが本当にあるのだとしたら、



私が差し出せる、その価値に見合うものなんて、ただ一つだ。







「わたし、


あの人に今、


気持ちを伝えられるなら、


死んだっていいわ。」

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