(拓馬・はるな編)

メッセージ12 拓馬の S. O. S ?

【 はるなの視点 】


 なんだか最近会社が緊迫している。人手不足もあるし、とても忙しい。私までピリピリしてしまう。そんな時課長から声がかかった。


「鮎川君ちょっと・・・」


何か悪い予感・・・今日は請求書の発行やら決算書の作成なんかが山済みなのに、これ以上仕事を増やすのは勘弁して欲しい。


「実は今週の土曜日なんだが・・・」 

「土曜ですか !」 


課長が言いかけた事に敏感に反応した。


「新製品の発注で資材の在庫が増加してるんだよ。今の資材管理部は特に人手不足だし、本来は我々経理課の仕事ではないのだが、在庫管理のチェックを手伝ってもらえないかって総務から要請があってね、君が良ければ休日出勤してくれないかな?」


それを聞いた私は、久々に課長の前で強く拒否した。


「冗談言わないで下さい!私なりにこの日は忙しいんです!」

「それは解ってるけどね?ほら君はベテランだし、私は鮎川君を信頼してるんだよ?」


(それはどうも、課長に信頼されて光栄です。土曜日は拓馬君との約束した日。この日は絶対に休まないと!)


「課長!この日はどうしても都合が悪いのでやっぱり無理です。」

「そこを何とかたのむよ」


それを聞いていた同僚の友人達が助け舟をくれた。


「課長!また鮎川さんをいじめてるんでしょう?」

「駄目ですよ?社員一人一人は大切な人材なんですよね?ほら?社訓にもあるじゃないですか?」

「人聞きの悪い事言わないでよ、君たちあっての経理課なんだからさあ・・・」

「でしたら、土曜日は私たち美人OL隊2名が責任を持って出勤いたしますので、課長さま!よろしくお願いいたします」

「そうか・・・じゃあ君達に頼もうか。鮎川君・・すまなかったね?」


課長はしぶしぶと頭を下げた。


「ごめん・・・ありがとう。」 


私は同僚達に答えた。


「いいのよ!大事なデートなんでしょう?仕事一図では女は磨けないからね~」


年上で人情味がある純子が言った。


「ち・・違うのよ (いえ、ちがわないけど・・・・) いとこの結婚式があってね・・・」

「えっ?てっきりデートかと思った。はるな!これで貸しだよ。“プランタン” のケーキ食べたいな~」


少しクールで眼鏡をかけた裕子がねだる。


「わかった。ほんとにありがとう。」 


(そうかデートなんだ。そういう感覚で彼を見てなかったな)

そう思うと心から暖かさが込み上げてくる。 

(誰かとデートなんて、ほんと久しぶりだね。よし!家に帰ったら早速拓馬君に電話しよう)


 結局残業が終わり家に着いたのは夜の7時過ぎ。とにかく疲れた!今夜は夕飯の支度はしたくないなぁ・・


 アパートのドアを開け、ブーツを脱ぎ、化粧も落とさずそのままソファーに横になる。ふっと顔を上げると、愛猫の “にゃにゃ丸” がご機嫌な愛嬌で、私の帰りを待っていてくれるのがささやかな癒しになっていた。


「そうだ!拓馬君今何してるかな?電話かけてみようかな?」 


ふと、頭の中に彼の事がよぎる。


【 拓馬の視点 】


 夜7時、忙しい仕事が終わる。タイムカードを押し帰宅の準備をするとそこに着信音が鳴る。 

(はるなさん?じゃないな・・・)

それは母親から、買い物依頼の電話。


「何?うん・・・わかった、何を買ってくる?・・・・うんいいよわかった。えっ?・・・・インスタントラーメンも?・・・・うん・・・・・わかった、適当に買ってくるから、じゃあ」


(しかたないな、この近くでスーパーに立ち寄ろうか?)


良く買い物をする店まで車を走らせる。


(そう言えば新しくオープンしたスーパーがこの近くにあったはず、行ってみようか)


広告チラシで見たはずの、心当たりの地図を頼りに車を運転した。


「あれ?たしかこの辺りだよな。このコンビニの右だったか?いや左を曲がって次の信号を右に・・・あれ、違うかな?」


なかなか店が見つからずノロノロと車を移動していた。

道に迷いながらも、店を見つけるのに苦労していたそんな時、また携帯の着メロが鳴った。


「今度ははるなさんからだ!」 


その着メロは間違いなく彼女からの着信であった。


【 はるなの視点 】


 拓馬君の携帯に掛けた。


・・・・・・ルルルル・・・・・・ルルルル・・・・・・ 

(出ない・・・・)

・・・・・ルルルル・・・・・・ルルルル・・・・・・ 

「おかけになった電話番号は電波の届かない・・・・」 

(留守か・・・・残念!)


その時電話の向こうから慌てた声がした。 


「もしもしはるなさん!?」

「そうだけど・・・・拓馬君だよね?」 


なんだかよく聞き取れない・・・・・


「ごめん!今、外出中・・・・・・(ザザー・・・・・)」 「・・るなさん?・・・・よく・・取れ・・んだけど・・・・(ザザー・・・・・)」


 かなり電波状態が悪い・・・


「拓馬君!よく聞こえないけど、大丈夫?」

「(ザザー・・・・・)・・・・・あと・・・・で用事・・わる・・・」

「えっ?何なに?」


私は携帯に耳を凝らして彼の声を必死に聞こうとした。


「(ザザー・・・・・)・・・・・た・・・・・・す・・・・・・・けて・・・・・・・・・・

はるなさ~ん・・・・」

(プッ!ツーツーツー・・・・・・)

「あっ!切れた・・・・・今たすけてはるなって聞こえたよね?・・・拓馬君!!」


私は顔が真っ青になった。拓馬君の身に何が起こったんだろうか。


「えー何?どうしたの!」


とりあえずもう一度コールを鳴らすが、通じない。

(出ないよ~・・・)


 しばらくたってから着信音が鳴り響く。今度ははっきりと彼からの言葉が聞こえた。


「あっ!はるなさんごめん。電波が悪くって・・・」

「拓馬君いったい何があったの?私、心配してたのに・・・」 


彼が不思議そうに答えた。


「えっ?ごめん。何かあったの?」

「何かって?だって、たすけてはるなさーん!なんて聞こえたよ?」 


ますます彼が驚いた。


「え~!そんな事言ってないから」


ひょっとして私の聞き違い?なんかそう考えたら急に恥ずかしくなった。


【 拓馬の視点 】


 よく考えたら携帯の電波状態も良くなかったのであのように聞こえても仕方なかったかもしれない。僕は彼女にこのような内容で会話していたつもりであった。


「はるなさん!あとちょっとで用事が終わるから待っててください」

「(ザザー・・・・・)」

(通じてないのか・・・)

「もしもしはるなさん?母に買い物を のまれて 今 ーパーを見つるんだけど、

聞こえる! ・・・・」

(プッ!ツーツーツー・・・・・・) 

「あっ!切れたよ」


この携帯よく考えたらもう5年も買い換えてない。今までも何度もぶつけているし、もう寿命かもしれない


「はるなさん、僕は大丈夫です。外出中で買い物の途中だったんです。色々と心配かけてごめんね」 


間違いでも誤解を招いてしまったことを素直に謝った。


「そんな事いいのよ、それより今度の土曜日は何時に会いますか?」

「そうですね、時間はお昼前でいいですか?待ち合わせ場所はどこにしましょうか?」

「じゃあ12時に、高崎駅の改札口付近でどうですか?」

「わかりました、遅刻しないように、必ず行きますから」


会えなくて寂しかった気持ちも、はるなさんに会えると思うと心が躍ってくる。今晩はあと少しだけ彼女の声を聞いていたい。


【 はるなの視点 】


 彼と話しをしていると、さっきまで疲れていた体が忘れていくみたいに軽くなった。そんな私の疲れを悟ったように彼が話しかけてくれる


「仕事忙しいのでしょう?あまり無理しないで休める時はゆっくり休んでください」

「ありがとう。だいじょうぶです」

「夕飯はこれからですか?」

「ええ。今日も残業で、疲れちゃったから今晩は適当に済ませちゃおうかな、なんて考えてたんだ」


少し彼に心の中をくすぐられたような感覚を覚え、つい本音が出てしまった。


「もしかしたら、はるなさんは一人暮らしなんですか?」

「そうよ!一人ってなんでも自分でしなくちゃいけないけど、気楽で楽しいし、私お料理だって少しは得意なんだからね!」

「はるなさんが作る料理は何でも美味しいでしょうね?ちなみに一番のおすすめのメニューはなんですか?」 


またまた彼が心の中をくすぐった。


「えっとね、洋食ならコロッケで~す。はるな風ころころコロッケ!一口サイズで可愛いんだよ・・・中身は季節によって変わるんだけどね?」


(あっ!なんか私、どーでもいいこと話してない?)

  

【 拓馬の視点 】


(ころころ?コロッケか・・・) 

コロッケが床をころころと転がり、慌ててそれを追いかける

彼女の姿を想像してしまった。


「ぷっ!ころころ?」 「拓馬君今、笑ったでしょう?」 「笑ってないよ!」

「絶対笑った!私の料理を馬鹿にしてるの?」 

「ちがうよ!馬鹿になんかしてないって・・」


(そんな愛らしいはるなさんの姿って見てみたい)


 その後もしばらくは、楽しいひとときを話しながら二人は過ごした。


「もうこれくらいで、続きはまた今度会った時にでもお話しましょう。夕飯がまだなら、お腹も空いたんじゃないですか?」

「うん、お腹減ったかも?じゃあ土曜日にお会いしましょう。またね・・・・」

「おやすみなさい・・・はるなさん」 

「おやすみなさい!」


 彼女にはまた土曜に会えるから今からすごく楽しみである。考えたら自分も夕飯はこれからだった、そう思ったら急にお腹が減ってきた。彼女の話しを思い出しコロッケが食べたくなった。

(彼女の手料理か。一度食べてみたいな・・・)


【 はるなの視点 】


 彼とのたわいもない会話が終わり少し温かい気持ちになった。そして空腹感も覚える。


(今日はやっぱり何か作って食べようかな。コロッケはめんどくさいから、今日はちょっと無理だね・・・)

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