茨城県編2.-優しさに包まれたなら-

 前書き



 サブタイトルが曲のタイトルに似ている! という意見が聞こえてきそうですが、お読みください。



 一時間経っても、誰も止まってくれない。そりゃあそうである。いきなり四〇キロ先まで乗せていってくれる人に出会えるのは万、いや、億に一つくらいのものだろう。

 あ、そうか。いきなり四〇キロ先まで、ではなく、ちょっとずつ乗せていってもらえば良いのか! こんなことも忘れていたなんて…… 。

 近くの文房具店に走って、スケッチブックと油性ペンを買う。そして、スケブに「一〇キロ先まで乗せていってください」と書き、それを持ったままで待つ。

 すると、一台の眩しい程に赤い車が止まった。

「どこを目指しているの? 」

「…… 国営ひたち海浜公園です。途中までで良いので…… 」

「乗って」

 四〇代後半位の女性だろう、助手席に乗せてもらう。

「何でそこまで行きたいの? 」

 経緯を話す。

「僕、旅人なんです。勤めていた会社がブラックだったんで辞めて、少しの間、旅に出ようかな、と」

「…… 勤めていた所がブラック、ねぇ…… 。大変だったわねぇ」

「はい…… 。でも、頑張っている人もいるのに、僕は辞めてこんな好きなことをしていても良いのかな…… って迷う時はあります」

 すると、その女性は微笑んで、

「良いのよ、辞めたくなったら辞めなさい。身体を壊すよりは良いわ。嫌いなことをずっとやっていたって人生には何も良いことが無い。で、リフレッシュして、また新しいことをすれば良いのよ。次は、ブラックなんかに、やりたくない職業になんて就かずに、好きな会社に勤めなさい」

 そうだ。IT企業に就いたのも、親に勧められたからだ。そっちの方が将来安泰だから、って。実際にはやりたくもなかったが、食えなくなるよりは良い、と無理してやっていたのだ。

「僕が、本当に就きたかったのは、旅行会社なんです。この旅が終わったら、自分でやりたいことをやっていきます。」

「頑張ってね」

 何と、その女性は三〇キロ先まで乗せていってくれた。ぼちぼちしか話をしていないのに、何故か寂しさを感じなかった。優しさに触れるとこうなるのか?

 あと一〇キロ。ヒッチハイクで行ってみるか。様々な出会いがあるかも知れないし。

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