神奈川編⒊-コースター作ったんだけど-

 寄木細工というのは、様々な種類の木材を組み合わせ、にかわでくっ付け、それぞれの色合いの違いを利用して模様を描く木工技術である。日本においては神奈川県箱根の伝統工芸品として有名であり、二百年程の歴史を持つ。

 シマ、市松、紗綾型サヤガタ、麻の葉、マス、矢羽根、青海波セイカイハなど日本の伝統文様を木で寄せた技法である。毎年正月に開催される箱根駅伝では、往路優勝チームに寄木細工で作られたトロフィーが授与されることで知られている……


 工場内にある本にはそう書いてある。

 難しそうな物だ。木がくっ付いてできている んだぜ!? すげぇよな! 落としたら大変そうだが。と一人で興奮する。

「じゃあ最初、木材を切ってゆく。大きさは一ミリでも違っていたら駄目。これは完璧でないと。で、模様の配色順に膠で圧着。この時のまとまりの模様を『単位模様たんいもよう』って言うんだよ。重ね合わせた素材を寄木細工固有の型に合わせて、単位模様の1辺を手鋸で切断。ここにあるのがここまでのやつ」

 この時点からもう素敵……。

「切断された単位模様を手鉋かんなで丁寧に仕上げる。完成された単位模様の1辺は、単位模様を作るために一組づつ膠を平らに塗布する。単位模様を合わせ紐で締め接着する。完成した単位模様を更に拡大するため手鋸のこで切断……手鉋で削った表面見てみる? 」

 うっすーく削った表面には単位模様。綺麗。

「切断した単位模様は更に寄せ集め膠で接着する。この作業を繰り返しながら大きな模様とする。これを種木たねぎと呼ぶ。種木を大きな特殊な鉋で1枚づつ丁寧に削る。この鉋紙を”づく”と呼んでいる。また手鉋の表面見てみる? 」

 こっちの方が綺麗。一枚欲しい。その旨を伝えると、

「駄目! こっちを使うんだから」

 と言われる。あ、そうなの。四角くまとめたのを中を掘ったりするんじゃないのね。

「鉋で削られた”づく”は縮んでいるのでアイロンでのばしこれを小箱等の化粧材、つまり貼り付ける物として使用。これが完成品。ま、これはコースターだけど」

「作ってみても良いですか? 」

「構わないよ。時間ある? 」

「腐る程有り余っています」

 体験者用の机に座る。

「何を作りたい? 」

「簡単なのが良いです」

「じゃあコースターだね。準備するから待っていてね」

 五分後。木材と色んな道具が机上に並べられる。

「コースターは簡単よ。今まで説明したよりもね」

 寄木のパーツを組合わせて文様を作り、接着剤で単位模様をくっ付け、やすりで擦ってワックスを塗る。

 僕はパーツを切るところから躓く。何分経ってもできないので、店員が既に切った木材を持ってきてくれる。それをくっ付け作る。

「出来たー! 」

 一時間後にはもう完成。リュックサックにしまう。

 お金は五千四百円。あって良かった。

 いつ使おうかな、このコースター……。



 後書き

 箱根駅伝の往路のトロフィーはいつ見ても感動します。

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