山梨県編1.-会社見学-
取り敢えず見学に行く事にした僕は、指定の住所の所に向かい、その会社の事務室を訪れた。
「すみませんあの……この会社の見学をしたいのですが、どうすればよろしいでしょうか」
事務室の美人なおねーさんが対応してくれた。
「えっとですね……アポは取ってありますか?え?無い?では今社長に確認しますので少々お待ちください」
あー、アポとってねぇ……。
「何時でもよろしい、とのことでした。どうぞ」
奥の扉を開け、工場内に入る。そこでは、桃の缶詰めを作っていた。
「君かね、見学者というのは」
社長っぽい人が話しかけてくる。
「えー、あ、はい。そうです」
「そうか。私は
やはりそうか。
「えー、えーと僕、お金が無くて、で、ここで日払いのバイトを見つけたので雇ってもらいたいなと。しかし、前に居た会社がブラックだったので、見学してどんなものか知ってから働きたいなー、と」
成程、と社長は呟き、「働きたくなったらまた来てくれ。履歴書は要らない」と言う。
「え?履歴書要らないんですか?」
どうやらここは、色々と訳ありのある人が働いているらしく、よって履歴書等は要らない、という事だった。
「あのー、何で桃なんですか?」
「おやおや、知らんのかいな。山梨県は桃も有名だ。収穫量No.1だ。」
へえ、そーなのか。
「僕は、今日は一日、どういうものか見学して帰ります。働きたくなったらまた来ます」
にしても、桃、美味そうだな。後で買おうかな。殆ど金無いけれど。
午後三時。ジリリリリーと鐘がなる。どうやら終業時刻の様だ。工場員が挨拶をしてそれぞれ帰宅準備を始める。僕も帰ろ、と思った時に一人の男性の顔に思い当たりがある。何処かで見た顔だ。
僕は勇気を出して話しかけてみる。
「あのー、もしかして、
ん?とその男性は言う。そしてこちらを振り向いて。
「ん、あー!お前か!今丁度会いたいと思っていたんだぜ!」
何故分かった。
色々と昔話に花を咲かせる。
「で、何で正男はこんな所で働いてんだ?頭良かっただろ。何処だって働き口が有る筈だ」
正男は、しゅんとなる。
「実はオレ、足を怪我しちまってよ。今右足は義足なんだ。いや、別にそれだけなら良いんだぜ。自由に動かせるし……。弟が五人殺して……何故か知らんけれども顔は知られているし、雇ってもらうところも無かったから……」
知らなかったぜ。お前がそんなに大変だったなんて。
「で、お前は何してんの?仕事就いたんだろ?」
「いや、実はさ……」
ブラックに勤めていた事、この間会社を辞めたこと等を簡潔に話す。
「で、今旅をしている。でも金がないから此処に来た」
なる。と正男が頷く。
「まー、良い所だぜ。工場員の仲も良いし、毎日楽しいし」
働いても良いかな、こいつも居るし、と思えてきた。
翌日。僕はそこの社長に雇って貰いたい旨を話して、日払いのバイトをすることになった。
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