第十二話『なんとかなりそうスイッチ』

『人間、本気を出せばどうにでもなる。』


いつもそう思って学校のテストはその日の前に必死こいて勉強したり、ゲームで徹夜してレベルを底上げして他の奴らを圧倒したり、骨折して全治二ヶ月の怪我を夏休み前だからと一ヶ月経たずに完治したりしていた。

最後のは奇跡みたいなものだが、人間頑張ればなんでもどうにでもなると思っていた。


だから本気を出せばゴブリンだってなんとかなる。

そういう馬鹿な考えの持ち主だ。

でも俺のやる気スイッチならぬ、なんとかなりそうスイッチはいつも作動している訳ではない。

こういうピンチの時に作動するのが俺の性。


つまり今の俺は大ピンチだってのになんとかなりそうな気がするって訳なのさ。

イコール大馬鹿野郎とでも何とでも言ってくれ。


ゴブリンは俺にハンデをくれた。

それは、武器の使用可ということ。だが奴は武器を使わず素手で戦うというのだ。

だが俺はそのハンデを敢えて取らなかった。


え?やっぱ大馬鹿野郎?

違うんだ。これには訳があるんだ。


大切な試験にハンデありでやるのは弱者の考え。

それを敢えて取らない事により俺は弱者ではなく強者と見られる可能性が出るのだ。

つまり、ここで無闇に動かず相手の出方を待ち、相手が思わず負けを認めざるを得ないくらいの一手を指す。

下手に動くことはしない。

それが俺の考えだ。


そしてその肝心の一手は…


勿論、何も考えてはいない。どうしよう。

でもまだ考える時間はある。

何故なら俺の溢れる余裕っぷりに相手さんが困惑しているからだ。

どうしてそんな余裕があるんだっ?って顔してるしな。


しかし相手はゴブリン。

どんな攻撃も力で圧倒されてしまいそうだ。

ならどうするべきか…



「ふぬうァァァァァァァア!!」



肝心な時にこちらに勢い良く走ってくるゴブリン。

ゴブリンが一歩一歩走り近付く度に揺れる地面。

巨体の割に早い足。

そしてめちゃくちゃ怖い顔。


あ、これチビりそう。


そして俺の半径三メートル辺りに来た瞬間、奴は空高くジャンプをした。



───なんだこのゴブリン。超身軽じゃねぇか。



両手を握り振りかざして降ってくるゴブリン。

流石に命の危機を感じる。

俺はマヌケなことに、その場で立ち竦んでしまった。


その時俺のなんとかなりそうスイッチが作動した。

どこからともなく、何故か助かる自信が出てきたのだ。



───後ろにバックステップ!



俺はすぐに後ろへ下がった。

すると奴は俺がいた場所の地面を見事叩き崩した。

もしあそこに自分が立っていたとすると、俺はもう木っ端微塵というやつなのだろう。


しかし、休んでる間もない。奴はまたすぐ次の手にかかる。

これをゲームに例えよう。

自分のプレイするキャラは特になんのメリットもない平凡キャラ。

そして相手のキャラは強靭の肉体を持ち、素早さも跳躍力もあるキャラクター。


これ勝ち目あるか?


いや、大切なのは頭脳。

これをどうやって有利に運ぶかで勝敗が決まる。


奴にどうやって勝つ?

そもそも勝てないなんて考えるな。

何かしら、1パーセントでも確率はあるはず。


きっとここで奴との距離を置いてもまたすぐ迫られる。

かと言って相手に近付き攻撃してもきっと無傷か弾き飛ばされる。


じゃあどうすりゃあいいんだ俺。


その時俺は最悪な方法を思いついた。


確率はきっと1パーセントにも満たないだろう。

でもこの方法しか今の俺にはない。

よりによって相手はゴブリン。俺が生きられる可能性はかなり低い。

だが今の可能性にかけるしかない。


奴は立ち上がり、腕を振っただけでそこらに舞った砂煙共は散っていった。

そして、奴の目の前に堂々と立つ俺。



そう、つまり俺は何も動かない、その場で立っていることを選んだのだ。

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