第十一話『足掻けない選択肢』
「新人君、頑張れー!」
大きな声援が空に響く。
そして野次馬のように集まるギャラリー共。
まぁ、全員魔王の手下なんだけれども。
なんで魔王の手下達が勇者の俺を応援したりしているのかって?
いや、もちろん罵声もあるがあえて聞こえないようにしているのだけれども。
何故ならこれは魔王軍入試試験みたいなものなのだ。
俺の目の前には、強靭の肉体を持つゴブリンが立っている。
そして指をパキパキと鳴らして俺にゆっくりと近づいているのだ。
俺はまさにピンチ真っ只中なのだ。
だが俺を救ってくれる人はいない。
肝心の魔王様はそんな俺を見ていても助けようとはしない。
当たり前だ。これは試験なのだから。
なんでいきなりそんな状況なのかって?
───それは数時間前の事だ。
俺は結衣に死の宣告をされた。
一瞬なんの冗談かと思ったが、彼女の表情から察するに、冗談ではなさそうだっだ。
俺は何か勘違いしていたかもしれない。
別にこの世界は俺を中心に周っている訳ではない。
だから俺がいつ現れて消えてしまおうと、この世界には関係ない。
勇者も肩書き。
代わりの勇者なんてきっと大勢いる。
つまり、この子が必要としてくれなければ俺はこの世界では存在の無を意味する。
「俺には、お前しかいないんだな。」
俺は小声で結衣にははっきりと聞こえないように独り言を呟いた。
この世界に呼ばれた以上、俺はこの子と居なければならない。
捨てられたら終わりなんだ。
そして俺は俯かせていた顔を上げ、結衣と目を合わせた。
「結衣、俺をお前の手下にしてくれ!」
「え…?」
結衣は唖然としていた。
それにしても何故俺が手下になりたいと言ったのか。
それは、俺の存在を見つけるためだ。
彼女はこの世界でもう、自分の居場所を見つけている。
だから俺はこの世界で結衣をきっかけに居場所を作るんだ。
でも、スタートが魔王の手下じゃ流石に変だっただろうか?
「手下…というより、私の秘書とかにならなくていいの…?」
「あ、その手があったか!んじゃ、それで!」
結衣の表情が強張っていた。
そういや、結衣の仲間が俺の存在を知ったら殺しに来るんだった。
これは随分と無理な事を言ってしまったな。
やっぱりやめて違う何かに…
「いい…けど…」
「よっしゃぁぁぁ!」
俺、思わず手を上げガッツポーズ。
だって魔王の秘書になれるんだ。どんな形にせよ、ここからやっと俺の異世界物語が始まろうとしているんだ。
これを喜ばずどうする?
今ならどんな困難にも立ち向かえる気がするぜ!いや、もう7年後に死ぬことは決定してるのだけれども。
「その代わり…大変だけど…大丈夫、?」
「おう!なんでも来やがれ!!」
◆
と自信満々に言ったものの…
まさか魔王の秘書になるどころか、手下になるには必ず試験として戦わなければならないらしい。
戦う相手は自分で決めるという方法なのだが…俺が結衣と相手探しに悩んでる中、何故かこのゴブリンが俺と戦えと勝手に決めたのだ。
因みに戦闘できないやつは魔王が許しても幹部達が総意で反対し、追い払ってしまうらしい。
魔王より幹部の方が権力あんのかよ…
つまり俺はこのゴブリンに負けたら即効追い払われてバッドエンドって訳だ。
うん。これはかなり酷いと思う。
勇者とはいえ、手からコンポタが出せる程度のこんな俺に自分の倍の身長と体格を持つゴブリンと戦えというのだ。
これはあれだ。
新手の嫌がらせみたいなやつかな。
しかし、こんなとこで挫けちゃいけない。
俺はなんとしてもこいつに勝たなきゃならない。
俺が最低限守らなくてはならないのが命(これは当たり前だが)と今は包帯が巻かれている、刻印が入っている右手。
何故右手を守らなくてはならないのかって?
刻印は勇者の証らしく、バレたら即効殺されてしまうと結衣に教えられたからだ。
…でも包帯巻いて戦闘ってこれ危なくないか?途中で破けたら即効終了じゃないか。
でも、何としてでもここで勝たなきゃどう足掻いても終わりなんだ。
「おっし!かかってこいやぁぁぁぁ!」
まぁ、作戦とか必勝法とかそんなものは全く無いのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます