第十話『宣告』

───眩しい。



俺は辺り一面真っ白な世界にいた。


何処を見ても果てしなく続く白い世界。

でもその世界の中に相対するものがぽつりとそこに居た。


俺ともう一人の人間。

ドロドロとした闇溜まりに一人の人間が居るのだ。

姿形もはっきりとしないものだったが、何故かそれを人だと理解していた。



───誰なんだ?



一歩ずつ、ゆっくりとその方へ歩んで行く。

そして"それ"は俺が歩く度にゆっくりと形を作っていく。


今は止まらずあの元へ行かなければならない気がした。



───なんだ、これ。熱い。



突然、身体の中が猛烈に熱くなっていくのを感じる。

歩けば歩くほど熱くなっていく身体。


でも、止まっちゃ駄目なんだ。


止まってしまったら、人が消えてしまう気がしてならない。

あの闇との距離はそう遠くはない。だが、近くもない。


俺は歩いた。


ガクッと、膝が落ちた。

思わず俺は手をつき、下を見た。

ドロドロと形を保たない闇が俺の足にへばり付いていた。


辺りを見渡せば、さっきまでの真っ白な世界はいつの間にか消え、真っ黒な世界へと変わり果てていた。


俺は慌てて前を見た。


そこにいた人間はもう、消えていた。

突然足元の闇がグチャグチャと音をたてながら形を変えた。


足元の闇全てが針のようだった。


そしてその針は姿を変え大きな棘となり、俺の足元から順にザクザクと突き刺していく。

痛くはなかった。


でもその代わり、大きな絶望感を植え付けられた気がした。



───その棘は最後に俺の頭を───




ビクッと俺の身体は大きく跳ね上がり、その勢いで横になっていた身体は起きた。



「っはぁ、はぁ…はぁ」



息を切らしていた。まるでさっき走っていたかのように脇腹が痛く、呼吸は乱れていた。

そして思う。



「変な夢見たな…」



俺の寝起きはまさに最悪。

そして寝てた周りを見て理解する。


ここは結衣の寝室だ。

さっき鎧が降ってきた部屋だ。


だが肝心の結衣はそこにはいなかった。


俺はベッドから降り、さり気なくクシャクシャな布団を綺麗に畳んだ。

魔王の部屋でも人の家。布団を畳んでおくのは最低限のマナーだろ?


しかし、周りを見渡して改めて思う。

魔王の寝室って、窓無いんだな。

俺は欠伸をしながら背伸びをしていた。



「随分と呑気そうだね」



聞いたこともない少年の声が扉の方から聞こえる。

扉の方を振り向くと、そこには全身包帯巻きの少年が居た。

顔はおろか、肌すら見えないくらいだ。


というかこの子前見えるのか?



「君は…?」



少年は一歩も動きはしなかった。

それどころか指一本も動かない。まるで人形のようだった。


…俺は気付いてはいけないことに気付いてしまったかもしれない。


さっきまで俺が寝てたとは言え、見渡した時は確実に誰も居なかったはず。

なのに物音も立てずにいつの間にかこの少年は部屋に居る。

もしかしたら彼女の仲間なのかもしれない。


───私の仲間があなたを殺しにくるわ───


その言葉が俺の頭の中を埋めた。


やばい、殺されるかもしれない。

さっきまで引いていた冷や汗が滝のように流れる。



「あ、怖がらないでよ!僕は君を見に来ただけだからさっ☆」



いくらこの世界に来たばかりの俺でも、話しかける少年は喋っているにも関わらず肩も口も動いてない異変に気付いた。

本当に喋っているのか?

いや、こいつは人間じゃない。馬鹿な俺でもわかる。

じゃあやはり魔王の幹部とかなのだろうか。この部屋に入るくらいだしな…



「こらこら、僕のことを詮索するような目で見ないでおくれよっ」



それでも微動だにしない少年。果たして、こいつを少年と呼んで良いのだろうか。



「お前…一体誰だよ…それに、いつからそこに…」



声が震えてしまい、これじゃあ、怖がってるのがまるわかりだ。

だが、少年を見ていると恐怖がどんどんと溢れ出てくるようだった。

まるで小さな鼠が、大きな虎…それ以上の生き物を見ているかのような、いつ殺されるかわからない恐怖だ。


結衣、魔王の時には全くそんな恐怖は感じなかった。

じゃあつまり、俺はもしかすると、彼に殺意のような何かを向けられているのではないのだろうか。


手足が震えが、止まらない。



「何を言っているんだい?僕はずっとここに居たんだよ。でも安心してよ。もうすぐ消えるから。"もう用は終わったんだ"。」



少年がそう言った途端、遠くの方からドタドタと走る音が聞こえる。

何もない壁に視線を移した途端、俺は少年から目を逸らしてしまった。


やってしまった。今のは目を離しちゃいけなかったんじゃないか。


(バァン!)


扉を勢い良く開かれた先には、結衣が居た。



「嘘…なんで…」



結衣は驚いた後、とても悲しそうな表情をした。

なんでかは分からない。だがきっと、あの少年が絡んでいることだと思った。

結衣は俺に近づき、俺の手を握った。



「ごめんなさい…ごめんなさい…」



訳がわからなかった。何故彼女が謝るのか。

そして、嫌な予感はしてならなかった。




「あなたは、7年後に確実に死ぬ」

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