第九話『晴れ、時々鎧』
「嘘…」
今、彼女は何を思ってどんな表情をしているだろうか。
そして俺はどんな顔をすれば良いのだろうか。
でも俺が言ったことは事実だった。
一昨日の事だ。
真夏にしてはありえないくらいの寒さが日本全体を包んだのだ。
ニュースはそれで殆どそれで持ちきりだったが、その異常気象が原因なのか、交通事故や失踪事件を幾つか目にした。
その中で偶然覚えていた、中学生少女失踪事件。
近所で起きた事件だから俺は少し気にかけていた。
それがまさか、異世界召喚に関わるものだとは思いもしていなかった。
しかし、彼女が行方不明の子だとは限らない。
でも十中八九、彼女な気がしてならなかった。
「そんなこと、私にとってどうでもいいよ」
突然ぽんっと頭に手を置かれた。
その手が一瞬びくっと軽く弾くように跳ねたのは気のせいだろうか。
「それより紋章、確認しないの?」
俺はすぐに手の甲を見た。
何故迷いもなく手の甲を見たかというと、トイレの中で俺が死に危機に追いやられていた時に、手の甲に何か書いてあるのを一瞬見たからだ。
そして、俺の手の甲には確かに書かれていた。
「なんだこれ…」
手の甲には大きく書かれた刺々しい金平糖みたいな刻印があった。
彼女の紋章はいかにも術式みたいな格好いいやつで、金平糖と比べると自分のはあまり良いものとは思えない。
「やっぱり、さっきの手から放たれたのは能力なのね…」
「え?あの時のコンポタが俺の能力?」
おいおい、冗談だろ?
それじゃあ、俺の能力は手からコンポタを出せる程度の能力ってことか?
…今までに聞いたこともない。
そんなの誰が得をするんだ。あ、コンポタ大好きな俺得かもしれないな。
「…」
黙り込んで、はぁ、と溜め息をして頭を抱える結衣。
溜め息をしたいのは俺の方だぞ。
結衣にとってまるで俺はハズレ籤の様だった。
「悪かったな、コンポタで。」
「そうじゃなくて…いや、うん…気にしないでください。」
気にするよ。俺の能力の話だろ、?
手からコンポタだろ?
俺は悲しいよ神様。
これからコンポタでどう生き残れば良いんだ。
いや、飢える可能性は減るかもしれんが…
「待てよ、お前はどんな能力がっ」
(ゴッ)
彼女の方に振り向こうとした途端勢い良く何かが俺の後頭部に直撃する。
物凄く痛い。痛すぎて涙がでるぞ。
って、これは…
ぶつかってきた物を確認すると、それは鎧のパーツだった。
もしかしたら彼女の能力って、物を自在に操る能力なのか?
いてて…と呟きながら顔をあげると結衣の表情は少し拗ねているような、怒っているような表情をしていた。
俺は何か失礼な事を聞いてしまったのだろうか?
「お前じゃなくて…名前!」
…お前はそんなことで俺を鎧で打ったのか。
それに君は良くてお前は駄目なのか。女の子ってよく分からないものだな…
「わかったよ結衣…」
ご機嫌をとるかのように笑ってみせる俺。
彼女は魔王である。
少しぐらいこういう、ちょっぴりとした我儘がある方が可愛らしくていいなと改めて思う俺だった。
「そういや、あなたの名前は?」
あっ、と自己紹介をしていなかった事に気付く。
そして俺はやっと彼女に振り向き、自信満々に答える。
「俺の名前は、二瓶 悠真だ!」
「じゃあ、なんて呼ぼうかな、ゆうくん?ゆーま?あ、UMA…」
途中まで可愛いこと言っておきながら、面白い事言えるじゃねぇかお嬢さん。
UMAとな。
女じゃなかったら、俺の必殺デコピンを食らわせていたぜ…
俺の笑顔は今、口元引きつってきっと変な笑顔になってるぞ。
「普通に呼んでくれ…」
思わず呆れ口調になる。
そして結衣は笑顔で俺を見た。
「わかった、ゆうまっ!」
結衣のその笑顔は俺の心をぎゅっと掴まれた衝動に駆られる。
可愛いなんてものじゃ言葉に表せられない、天使とでも言えるような笑顔だ。
でもこの感情を言葉に表すとしたらどんな言葉になるだろうか。
「可愛い…」
その言葉は思わず口から零れた。
はっと我に戻った俺は少し前のめりに言う。
「お前のその笑顔、すっげぇ可愛い!」
(ドゴォ)
左から何かが凄い速さで俺に飛んで来るのを脳が捉えた瞬間、気付けば俺は横転していた。
今度こそ首が本気でもげるかと思ったぞ。
何が飛んできたかはすぐわかる。
また鎧だろうが。
ぶつけられた所を抑えながら身体を起こして結衣に文句を言おうとしたその時。
「可愛いとか言わないでよ…それに私はお前じゃなくて…」
結衣は腕で軽く顔を隠した。
しかし、そこから見える真っ赤な林檎のような顔をして口を尖らせ文句を言うような姿はとても可愛いのだ。
そうか、お前って言うのは駄目だったんだ。
「結衣、だろ?」
(ゴンッ)
またもやスパーンと頭に直撃する。そろそろ気絶するんじゃないかこれ。
というか、何故結衣はこんなにも俺を攻撃するのか…
やはり何か悪いこと言ったのだろうか?名前も駄目なのか?じゃあなんて呼べば…
「ゆうまは、馬鹿すぎます!!」
布を抱きかかえながら俺に指をさす結衣。
そんな表情も可愛いなとつくづく思う。
「でも可愛い事には変わりないけっどっ!!」
(ドゴドゴドゴッ)
上から鎧の雨が降る。
痛いしかなり重い。どうやら可愛いという言葉を言ったりすると鎧が飛んできたり降ってくるようだ。
途中から調子乗っていたのもあるが、これは少しやり過ぎなんじゃ…
(ガクッ)
「あっ」
気を失う前に聞いた言葉がそれだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます