第八話『怯えものの勇者』
もしも異世界に召喚されて自分が勇者という存在だったら。
それはきっと人それぞれだが、大抵の人は喜んだりするものではないのだろうか。
まぁ、面倒くさいだのとか思う輩もいなくはないと思うがな。
勇者といえば主人公。RPGなどではまさに必須キャラ。
そんな勇者に憧れる人もいるのではないだろうか。
俺、二瓶 悠真は勇者である。
どうだ。羨ましいだろう?勇者になりたいだろう?
なら俺と今すぐ変わってくれ。
何故かって?
見りゃわかるだろ。
勇者の俺が魔王に召喚されたからだ。
正直今までの彼女の過去の話を聞く限りじゃ、勇者に大切な人を殺されたっていう話だ。
勇者に恨みや憎しみをもって当然。
つまり俺はまたまたの絶体絶命。一体この単語何回使うんだ。
目の前の少女相手に立ち竦んでいる俺。
そして相手は俺と同じく異世界に召喚された者同士。
しかし、住んでいる時間が違うんだ。
この子はこの世界に来て二年で一国の魔王。
俺は二年も立つ前に最早人生の危機。
抗えない危機の連発。
まさに窮地に立たされる…みたいな?
「ぷっ、あはははっ」
彼女は何を思ったか突然笑いだした。
それは俺の恐怖心を擽らせているようだった。
さっきの空っぽのような彼女の表情はいつの間にか消え、柔らかい笑みになっていたのだ。
「そんなあからさまに怯えた顔しないでよ」
「それは…」
あまりにも怖かったから。
彼女の瞳に光を感じなかったから。
『だってあなたは勇者だから。』
その言葉が重たく感じたからだ。
「安心しなさいよ。私もあなたと同じだから!」
…
困惑する俺。
どういうことだ?
彼女は魔王で勇者??
そういうことなのだろうか?
ん?
どういうことだ???
俺の脳内ではてなが飛び交う。
一体いくつのはてなが飛んだのだろうな。
「異世界に来たものは高確率で勇者に選ばれる。その証に、ほら」
彼女は急に上着を脱ぎ、俺に背を向け、ゆっくりとその白い肌を…
いや、これは不味いだろ。
「な、なにしてっ!?」
「お馬鹿。変なこと考えないで…見て。」
思わず唾を飲んだ。
彼女の白い肌がゆっくりと晒されていく。
平常心平常心。
そんな事を考えているうち、彼女は服を下ろす手を止めた。
ふと改めて彼女の身体を見てみた。
肩甲骨の下辺りだろうか。
彼女の白い肌には見たことのない手のひらサイズの刻印が入っていた。
思わず凝視してしまった。
「これと、同じものがあなたにもある…から…」
髪の間から見える彼女の耳は真っ赤だった。
彼女も女の子だ。やはり肌を晒すのには抵抗があったはず。
でも、彼女がそこにある刻印を見せてくれたのは俺を安心させようとする、彼女としての心遣いなのだろう。
「わかったけど、女の子が肌を晒しちゃだめだ。」
そっと俺は自分の上着を脱ぎ、結衣にそっと羽織らせた。
「なぁ、悪いが話変わるが…結衣が元の世界に居た時って、夏なのに寒かったんだよな。」
「…?うん。」
俺は自分の服装を見て思った。
自分の居た元の世界のことを。
そして一つの疑問が浮かび上がっていた。
「今もそうなんだよ。」
「え、?」
俺は彼女に背を向けた。
だから今から彼女がどんな表情をするかは分からない。
ただ、この話を聞いて彼女が喜ぶのか悲しむのか、俺は後者の表情を見たくなくて背を向けたチキン野郎である。
こんな情けない俺は勇者失格だろう。
「逆に二年前の夏には、そんな異常気象は起きていないと思うんだ。それに一日前、少女が行方不明みたいなニュース…やっていた気がするんだ。」
俺が思うにはきっと、この世界とあっちの世界の時間の流れは…
「多分、君が居なくなったのは向こうで言う、二日前じゃないかな。」
俺にとっては今は他人事だから、彼女の気持ちは分からない。
だから今は彼女を見れなかった。
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